昼食と、昼の回診が終わった頃にエイイチロウさんが帰ってきた。

そうそう。今日の回診で私は、明日退院することが赦されたのだった。
これは、数少ない朗報の一つ。



「お帰りなさい。
ママのお相手、お疲れ様」

私がねぎらいの言葉を掛けると、エイイチロウさんがくすりと笑った。

「大丈夫。仕事柄、慣れてるから」

そうでした。
エイイチロウさんはホストでした。

「ねぇ、ジャックも雇って欲しいって言ってるんだけど。
見習い体験とか出来そう?」

私が切り出して始めて、エイイチロウさんは気配無く部屋の片隅に突っ立っていたジャックに気づいたようだった。

「ああ、あの吸血鬼、帰ってきてたんだ」

そっけない声音に、ジャックは穏やかな微笑みを湛えた顔でエイイチロウさんを見た。

「ええ。必要なお金、準備できたので」

「そう。
×××様は何て?」

私に聞き取れない固有名詞を切り出したエイイチロウさんの手を、ジャックの細い手がぐっと掴んだ。
二人はそのまま、病室を出て行った。

一人残された病室は、耳鳴りがするほど静かで。
私の心のようにガランとしていた。


クリスマスイブまで今日を含めて後10日。
でも、それは待ち望んでも良い日なのだろうか。
私の記憶が戻る日。
それは。


ジャックが消える日でも、あるのだ。