雨がしとしとと降り続ける夕暮れ時、公園の地面は無数の雨水が波紋を広げ、茜色の空が水面に揺らめく。

「おはよう」

雨が降りしきる雨を無心に眺めている彩芽。

俺の声に気づいて、小さく笑った。

「おはようって夕方だよ」

馬鹿にするような雰囲気はなく、温かい笑い。

「そうだね。確かに」

笑おうとした瞬間、足元の何かが跳ねた。

それは錆びた金属のような色をしたカエルだった。

地面を見ると、気がつかなかったのが不思議なくらい沢山のカエルが辺りを飛び回っていた。

東屋の中を自由に跳ね回っている。

彩芽はその様子を見て「賑やかだね」とほくそ笑む。

「そうだね。水の波紋とかカエルの跳ねる音、濡れた葉っぱの匂い…雨の日って意外と賑やかだね」

彩芽は目を閉じて音を味わうように静かに息を吸った。

「確かに、返る意外にも雨って賑やかだ」

彩芽の言葉は自分の中にスッと落ちてきた。

ジグソーパズルの最後のピースがカチッと音を立てて、気持ちよくハマるように。

「うん。雨って自分を隠してくれるようで安心する」

空を見上げながらそう呟いたとき、掌に冷たい感触が触れた。

「わっ」

手の上に小さなカエルが乗っている。

目の周りに黄色い輪のような模様があって、足には吸盤のような指。

その指の間には薄い膜が貼ってある。

地面ではねていた時には真っ黒に見えた皮膚もよく見ると濃淡のある迷彩模様だった。

その意外性と発見が相まって、自然と愛着が湧いてくる。

「可愛いでしょ」

彩芽が俺の掌のカエルにそっと触れた。

「そうだね」

落とさないようにそっと見守っていると「ここにもいる」と言って、彩芽は東屋の柱へ駆け出した。

そこには奇異どり色の絵の具一食で塗られたような鮮やかなカエルがいた。

そして、その隣にはさっきのカエルよりも色が薄くて小さなカエル。

「一匹一匹、全然違うね」

カエルなんてみんな同じだと思っていた。

深く考えたこともなく、雨の日に現れる少し気味の悪い生き物くらいにしか思っていなかった。

でも、今カエルにもそれぞれの個性があることに気付いた。

誰かと同じ姿を目指して進まなきゃいけないという気持ちが少しだけ色褪せて、心が軽くなった気がした。