苦しいときには彩芽の名前を唱えてしまう。

 無意識に湧きあがってしまうその名前は救いのように、俺の中に残るぬくもりを思い出させてくれる。

 彩芽のことは、どんなに時が経っても消すことができない。

 彼女の笑顔、声、しぐさの一つ一つがいまだに鮮明に残っている。

 それはこれから先のずっと変わらないだろうし、それでいい。

 彩芽の存在を心に抱きながら生きていく方が俺には自然だろうし。

 そして、おれは社会不適合者のままかもしれない。

 人と同じように生きていくことができずに、彩芽を求めてしまうかもしれない。

 それでも、幸か不幸かの境界線を歩いているような感覚でもいいから、俺は生きていきたいと思う。

 彩芽の分も、なんて言えるほど強くは生きられない。

 でも、俺なりに少しでも幸せを見つけられたらいい。

 屋上からの空が綺麗とか、あの少年に教えてもらってちょっとだけ勉強が分かるようになったこととか。

 彩芽がいてくれたからこそ、今の俺がある。

 その事実を胸に、俺らしく生きていきたい。

 百点満点な幸せじゃなくていい。

 50点くらいの曇天模様の空の下を。

 俺は未だに生きている。