俺は、ただただ無心に歩いていた。

 足音だけが響く。

「諦めてね」

 彩芽の言葉が何度も脳裏をよぎる。

 その言葉を聞いたとき、一瞬、やっぱりそうだよなと感じてしまった。

 俺は、きっと最初から変えられないことが分かってたのかもしれない。

 だけど。

 彩芽がいない世界で生きていける自信がない。

 それでも、諦めることが、彩芽のためなのだろうか。



 立ち止まって、空を見上げた。

 夕暮れの空が、朱に染まっていた。

「どうすればよかったんだろうな」

 問いかけても、答えは返ってこない。

 ただ胸の奥に残るのは、彩芽の笑顔と、そしてあの冷たい眼差し。

 希望と絶望が交錯する。

 俺の気持ちは、ずっと彩芽に届いていなかったのだろうか。

 俺の独りよがりだったということか。

 俺が、彩芽に生きろと押し付けていたのか。

 俺は、もうどうしたらいい。

 分からない。

 分からない。

 彩芽、助けて。

 こんな時ですら、彩芽の名前が出てきてしまうことに溜め息が出る。

 俺は歩みを止めたまま、拳を握り締めた。