空気は刺すように冷たく、息を吸うたびに肺の奥まで凍りつくような感覚が広がる。

 風は容赦なく頬を打ち、鞭のように肌をなぞっていく。

 4月だというのに、まるで冬のような寒さだった。

「彩芽、寒くない?」

 凍てつく空気が流れ、心まで締めつけられるようだった。

「大丈夫だよ」

 彩芽はそっと微笑んだ。

「幽霊のこの姿だと、寒さとか感じないから」

「ああ、そっか」

 それでも彩芽は目を伏せ、白く染まった吐息が空に溶けていくのを見つめていた。

「でもね、寒さを感じられないのは、ちょっと寂しいよ」

「どうして?」

「寒いと、誰かのぬくもりが恋しくなるから」

 ふっと寂しげに笑ったその顔が、胸に刺さった。

 どうにかしてあげたくて、彩芽の手に触れた。

 じんと冷たくて、涙がこぼれた。

「どうしたの?」

 何もかも平気な顔で受け流す彩芽を思うと、涙が止まらず、苦しかった。

 腕を取って、そっと抱きしめた。

「え?」

 戸惑いの声を上げたあと、落ち着いたように腰に手を回してきた。

 温かかった。

 彩芽はこのぬくもりすら感じることができない。

 それが本当に、悲しくて寂しいことだった。

 そして、彩芽の鼓動を感じた気がした。

 いや、幽霊なのだから、きっと俺の幻聴だろう。

 それでも、ただただ彩芽を救いたいと思った。

 彩芽に何もしてあげられていないことが、やるせなかった。

「ねぇ、生きようよ」

 涙ながらに絞り出した言葉だった。た。