雨が降っているわけでもないのに俺はいつもの公園に足を運んでいた。

 人影はなく、帰る気にもなれず、ただ時間を持て余していた。

 それでも、心のざわつきは収まらなかった。

「これ、君が壊したんだよね。ちゃんと謝って、弁償しなさい」

 交通安全の蛍光色のチョッキと帽子を身に着けたおじさんが正義感を前面に出して言い放った。

 何か月か前、幽霊の彩芽に初めて出会った日に壊したブランコを指差していた。

「いくらですか?」

 か細い声で尋ねると、「まずは謝るのが先だろ」と叱られた。

 数十万円の賠償金を渡したが、それでも長い時間、帰ることはなかった。

 空が暗くなるまで怒鳴られ続け、ようやく気が済んだのか、そのおじさんは去っていった。

 確かに悪いことをしたとは思うが、叱って何か意味があるのだろうか。

 俺はベンチに腰を下ろし、壊れたブランコをぼんやりと見つめた。

「また怒られてたね」

 突然声がして振り返ると、そこには彩芽がいた。

 東屋の中にいたため気づかなかったが、空を見上げると、微かに雨が降っていた。

「見てたの?」

「うん。姿は見えなくても、こっちからは公園の様子がずっと見えてるよ」

 彼女は囁くように小さく笑った。

「そっか」

 自殺を試みたあの日も、すべて見られていたのかと思うと、恥ずかしさと情けなさが入り混じる。

「大丈夫だよ。蓮はなんだかんだ言いながら生きていくから」

「何それ」

 そう尋ねても、彩芽は微笑むだけで何も答えなかった。

 いつもより高く遠くそびえる灰色の空が、俺たちを静かに照らしていた。

 親近感のような羞恥心が煮え切って、顔がほんのり赤くなってしまった。