予報通りの雨が降って、俺はいつもの公園で彩芽を待っていた。

 どうにかして、あと10か月の間で彩芽に生きたいって思わせなくては。

 深呼吸をして、気合を入れた。

 雨粒の音が屋根に響くたび、決意が強くなっていく。

 数分もすると、透明人間が人間に戻るように何もないところからスッと現れて、手を振った。

「おはよ」

「おはよう」

 彩芽は俺の隣に座ると、灰色の空を見渡した。

「調べたところによると、幽霊になるのは自殺した人だけなんだって」

 生きて欲しいと願う人がいる、の部分は伏せた。

 俺だ、というのが分かったから。

「うん。知ってるよ」

 何でもないことのように呆気なく頷く。

 さも、それが当たり前だというように何の憤りも感じずに、ただの事実として受け止めている。

 でも、そうだよな。

 人の前では感情の機微の濃い人間として生きているが、実際は俺よりも喜怒哀楽のうちの怒哀の感情は薄い。

「ネットに載ってたの?」

「うん。そういう感じのブログがあって」

 生き返った人が書いたという部分は言わずにいた。

 生き返って欲しいという俺の欲望を通さずに生きたいと感じて欲しかったから。


 一瞬、沈黙が流れた。

 胸をじわじわと締め付けていくような痛みを伴って、俺は自分自身の話す言葉の重さをかみしめる。

 そうするしかない。

 俺はそんなに割り切れる強い人間じゃない。

 だけど。

「だからさ、彩芽があと10か月でいなくなっちゃうなら、それまで一緒に楽しく過ごそうって思うことに決めたんだ」

 嘘、だった。

 彩芽を安心させるための。

 10か月間、俺の思い当たる全ての楽しいことをやりつくして、彩芽にまだ生きたいって思わせる、それが俺の作戦だ。