いつか、君は私の生きる意味になる。

「…とにかく、学校に行かなきゃ」

そう言って江崎に背を向け、歩き出そうとした。

しかし、江崎が美雨の腕を掴む。

「待ってよ」

江崎の言葉に足を止めた。

振り返ると江崎は優しい、それでいてどこか切なげな顔で美雨を見つめていた。

「もう少し、ここに居ようよ」

その声に美雨の足は再び重力に縛られたように動かなくなった。
江崎の腕を掴まれたまま、美雨は凍りついた。

彼の指先が、夏服の薄い生地越しに熱が伝わる。

その熱が、冷え切った美雨の心臓に、遠い場所から火を灯すようにじんわりと染み込んでくる。

優しい、それでいてどこか諦めたような彼の声が朝のホームに響く電車の走行音に埋もれていく。

「なんで?」

蚊の鳴くような声で問う。

顔を上げることができない。

江崎は腕を離し、ポケットに手を突っ込む。