そんな時、社長から秘書への転属を打診された。
最初から社長秘書としての任命。
間違いなく近い将来の若い社長の右腕として期待されてのことだ。
快諾した異動だったが、正直舐めていた。
社長の判断力、視野、采配に触れるに付け、自分の小ささを思い知らされるようなものだった。
悠真もまだ触れていないトップの仕事はかなり刺激的だ。そこに自分が就きたいとは思わないが、悠真と二人でそこに立つ姿は容易に想像がつく。
そのためにも俺が今やるべきことをやるだけだ。
「おかえりなさいませ」
1階出入口で静かに社長を出迎えると、エレベーターで午後の予定を確認しながら社長室へと向かう。
「対外業務は15時のアポイントで終了予定です。
特に急ぎの資料もありません。
たまには早くお帰りになってはいかがですか。
奥様もお喜びになりますよ」
「平川、お前もそんな気遣いまでするようになったのか。
だったらお前も早く家庭を持て」
「社長、仕事には関係ありませんので余計なお世話というものですよ。
ついでに言うならお宅の息子さんの心配をされた方が良いのでは」
「あっはは。
全くだ。
お前ら二人、私の心配が尽きんよ」
「それくらいの方が張り合いがあって良いでしょう。
余計な心配もできるくらいお暇なようですので、夕方に支社長の面会希望1件入れさせていただきました、オンラインです。
心置きなく仕事に集中なさってください」
話をしながら予定を組み替え、社長へ向けて冷ややかに微笑んでみせた。
「まったく容赦ないな」
湊社長はわざとらしく肩をすくめるとゆっくりと自席に腰を下ろした。
メールをチェックすると手元の資料に目を落とす。
「平川。
これは差し戻しておいてくれ。
理由が知りたかったらアポイントを取るようにと」
「承知しました。
では、明日の14時から30分、時間を空けておきます」
差し出された社内からの提案書を受け取ると、差し戻しのためのメモを準備する。
「それから社長、湊部長からアポイントの打診を受けております」
「そうか、では来週ランチミーティングを入れておいてくれ。都合は悠真に合わせる。
お前も同席するように」
「いえ。遠慮させていただきます。
ミーティングなどこじ付けずにご子息と食事なさったらいかがですか。
たまには親子水入らずもよろしいかと」
息子からの食事の誘いが嬉しいくせに、面倒な親子だな、と笑いが漏れる。
互いに尊重しあっているのがよくわかる親子なのだが、経営者としての立場が絡むとどこか牽制しあっているように見えるところもある。
悠真が昇格にはまだ急がせるな、と今後のことを父親に釘を刺したいのだろうことは想像できるが、おそらく社長も同じようにその逆のことを悠真へ切り出すだろう。
俺自身はこれからまだ社長から学ぶことも多い。
しばらくは俺も悠真側の考えだな、と思うが、これを口に出すと面倒なので、貴也は静観することに決めていた。
悠真へ来週の日程を打診すると、すぐにOKの返事が来た。
「来週水曜に予定します。どちらかお店は予約しますか?」
「いや、プライベートの食事なら秘書には依頼できないな」
社長はわざとらしく目配せする。
「息子さんの友人として、いつもの店を予約しておきますよ」
仕方ない、とばかりに貴也もわざとらしくリアクションをとって見せた。
最初から社長秘書としての任命。
間違いなく近い将来の若い社長の右腕として期待されてのことだ。
快諾した異動だったが、正直舐めていた。
社長の判断力、視野、采配に触れるに付け、自分の小ささを思い知らされるようなものだった。
悠真もまだ触れていないトップの仕事はかなり刺激的だ。そこに自分が就きたいとは思わないが、悠真と二人でそこに立つ姿は容易に想像がつく。
そのためにも俺が今やるべきことをやるだけだ。
「おかえりなさいませ」
1階出入口で静かに社長を出迎えると、エレベーターで午後の予定を確認しながら社長室へと向かう。
「対外業務は15時のアポイントで終了予定です。
特に急ぎの資料もありません。
たまには早くお帰りになってはいかがですか。
奥様もお喜びになりますよ」
「平川、お前もそんな気遣いまでするようになったのか。
だったらお前も早く家庭を持て」
「社長、仕事には関係ありませんので余計なお世話というものですよ。
ついでに言うならお宅の息子さんの心配をされた方が良いのでは」
「あっはは。
全くだ。
お前ら二人、私の心配が尽きんよ」
「それくらいの方が張り合いがあって良いでしょう。
余計な心配もできるくらいお暇なようですので、夕方に支社長の面会希望1件入れさせていただきました、オンラインです。
心置きなく仕事に集中なさってください」
話をしながら予定を組み替え、社長へ向けて冷ややかに微笑んでみせた。
「まったく容赦ないな」
湊社長はわざとらしく肩をすくめるとゆっくりと自席に腰を下ろした。
メールをチェックすると手元の資料に目を落とす。
「平川。
これは差し戻しておいてくれ。
理由が知りたかったらアポイントを取るようにと」
「承知しました。
では、明日の14時から30分、時間を空けておきます」
差し出された社内からの提案書を受け取ると、差し戻しのためのメモを準備する。
「それから社長、湊部長からアポイントの打診を受けております」
「そうか、では来週ランチミーティングを入れておいてくれ。都合は悠真に合わせる。
お前も同席するように」
「いえ。遠慮させていただきます。
ミーティングなどこじ付けずにご子息と食事なさったらいかがですか。
たまには親子水入らずもよろしいかと」
息子からの食事の誘いが嬉しいくせに、面倒な親子だな、と笑いが漏れる。
互いに尊重しあっているのがよくわかる親子なのだが、経営者としての立場が絡むとどこか牽制しあっているように見えるところもある。
悠真が昇格にはまだ急がせるな、と今後のことを父親に釘を刺したいのだろうことは想像できるが、おそらく社長も同じようにその逆のことを悠真へ切り出すだろう。
俺自身はこれからまだ社長から学ぶことも多い。
しばらくは俺も悠真側の考えだな、と思うが、これを口に出すと面倒なので、貴也は静観することに決めていた。
悠真へ来週の日程を打診すると、すぐにOKの返事が来た。
「来週水曜に予定します。どちらかお店は予約しますか?」
「いや、プライベートの食事なら秘書には依頼できないな」
社長はわざとらしく目配せする。
「息子さんの友人として、いつもの店を予約しておきますよ」
仕方ない、とばかりに貴也もわざとらしくリアクションをとって見せた。

