【貴也】
「おい、どういうつもりだ」
加山を呼び止め、小声で問いただす。
加山は気にする様子もなく答えた。
「無理にはお願いしてないわよ。
文句があるなら自分の外面の良さをどうにかすることね」
「うまいことのせやがって」
「あら、いいじゃない。
湊くんの仕事が順調にいけば、平川くんも助かるでしょ?」
「あのな、」
一言文句でも言ってやろうと口を開きかけた時スマホが鳴る。
社長だ。
思わず舌打ちしてしまう。
じゃああとはよろしく、と軽い調子で加山は田宮さんの後を追って行った。
同期の加山はかなりドライな性格だ。
入社当初、誰しもが互いに気を使いそうな時期でも自分の意思をはっきり主張していた。
仕事をさっさと終わらせて帰ろうと思わないのがおかしい、などと業務中の雑談に手が止まる同期の女性たちを何度も凍らせた。
研修後、俺と同じ部署に配属されると、彼女からすぐに呼び出された。
女性からの呼び出しなら、いつものように付き合ってほしいだとかいわれるのか、同じ配属になった途端面倒な女だとおもったが、別の意味で面倒だった。
要領よく仕事をしない人とは働きたくない、と面と向かって言い放ち、あれこれとそれまでの俺の悪行を言い連ねて、私の邪魔をするなと言ってきたのだ。
後から分かったことだが、その頃には同じく同期の二ノ瀬信と付き合っていたらしい。
二ノ瀬は悠真とよく3人で連んでいたから俺の行動は、彼女に筒抜けだった。
同じ部署に配属されると、のちのちどちらかが異動になることが多い。
社長の息子の友人で、何かとうまく立ち回っているように見える俺は、彼女にとって目障りだったんだろう。
自分のステータスは自分で築くべきだ。だから俺はかなり努力していると自負している。ゆえに妬まれてもなんとも思わないが、彼女がそれ以上に努力していたのは近くで見て十分すぎるくらいに理解できた。
だから彼女が主任に選ばれた時は素直に祝福した。ところが、それまでの努力から一転、二ノ瀬との結婚、そして出張も多い彼のサポートを優先したいと昇格を辞退した。
しかし、結婚、出産を経てもなお、あのパワフルさは健在で、アシスタントとはいえかなりのやり手であることには変わりない。
だからこそ悠真も彼女をアシスタントに付け、育休を挟んでも別の人間を充てようとはしなかった。
旧姓のまま働いていることもあり、時短じゃなければ子供がいることも忘れてしまいそうな時もある。
俺は地位や出世に興味があるわけでもなく、悠真が親父さんの会社に入ると聞いて、身近な人間がどのようにトップへと上りつめるのか興味本位でこの会社を選んだようなものだった。
とはいえ、悠真も俺もコネで入ったわけではなく、入社試験を受けている。
まあ、なんらかの思惑が働くところがあったかもしれないが、少なくとも選考を受けてみんなと同じスタートラインで始まったはずだ。
しかし、悠真は研修からずば抜けて成績が良く、実力で役員が見えるところまで辿り着いている。
そんな悠真の近くにいて触発されない方がおかしい。
この会社に入ってみると思った以上に仕事が面白く、俺も悠真と並んである程度の評価を受けていた。
「おい、どういうつもりだ」
加山を呼び止め、小声で問いただす。
加山は気にする様子もなく答えた。
「無理にはお願いしてないわよ。
文句があるなら自分の外面の良さをどうにかすることね」
「うまいことのせやがって」
「あら、いいじゃない。
湊くんの仕事が順調にいけば、平川くんも助かるでしょ?」
「あのな、」
一言文句でも言ってやろうと口を開きかけた時スマホが鳴る。
社長だ。
思わず舌打ちしてしまう。
じゃああとはよろしく、と軽い調子で加山は田宮さんの後を追って行った。
同期の加山はかなりドライな性格だ。
入社当初、誰しもが互いに気を使いそうな時期でも自分の意思をはっきり主張していた。
仕事をさっさと終わらせて帰ろうと思わないのがおかしい、などと業務中の雑談に手が止まる同期の女性たちを何度も凍らせた。
研修後、俺と同じ部署に配属されると、彼女からすぐに呼び出された。
女性からの呼び出しなら、いつものように付き合ってほしいだとかいわれるのか、同じ配属になった途端面倒な女だとおもったが、別の意味で面倒だった。
要領よく仕事をしない人とは働きたくない、と面と向かって言い放ち、あれこれとそれまでの俺の悪行を言い連ねて、私の邪魔をするなと言ってきたのだ。
後から分かったことだが、その頃には同じく同期の二ノ瀬信と付き合っていたらしい。
二ノ瀬は悠真とよく3人で連んでいたから俺の行動は、彼女に筒抜けだった。
同じ部署に配属されると、のちのちどちらかが異動になることが多い。
社長の息子の友人で、何かとうまく立ち回っているように見える俺は、彼女にとって目障りだったんだろう。
自分のステータスは自分で築くべきだ。だから俺はかなり努力していると自負している。ゆえに妬まれてもなんとも思わないが、彼女がそれ以上に努力していたのは近くで見て十分すぎるくらいに理解できた。
だから彼女が主任に選ばれた時は素直に祝福した。ところが、それまでの努力から一転、二ノ瀬との結婚、そして出張も多い彼のサポートを優先したいと昇格を辞退した。
しかし、結婚、出産を経てもなお、あのパワフルさは健在で、アシスタントとはいえかなりのやり手であることには変わりない。
だからこそ悠真も彼女をアシスタントに付け、育休を挟んでも別の人間を充てようとはしなかった。
旧姓のまま働いていることもあり、時短じゃなければ子供がいることも忘れてしまいそうな時もある。
俺は地位や出世に興味があるわけでもなく、悠真が親父さんの会社に入ると聞いて、身近な人間がどのようにトップへと上りつめるのか興味本位でこの会社を選んだようなものだった。
とはいえ、悠真も俺もコネで入ったわけではなく、入社試験を受けている。
まあ、なんらかの思惑が働くところがあったかもしれないが、少なくとも選考を受けてみんなと同じスタートラインで始まったはずだ。
しかし、悠真は研修からずば抜けて成績が良く、実力で役員が見えるところまで辿り着いている。
そんな悠真の近くにいて触発されない方がおかしい。
この会社に入ってみると思った以上に仕事が面白く、俺も悠真と並んである程度の評価を受けていた。

