【悠真】
物静かな彼女の一面に驚いた。
いきいきとした表情でオアシスの素晴らしさを語る彼女。
失礼かもしれないが、可愛らしく思えて思わず笑ってしまった。
いつもは通らない路地。仕事を早めに切り上げてあの喫茶店の前を通ると、店内に彼女の姿が見えて、思わず足を止めた。
喫茶店でも、仕事中も先日のことを顔にも出さない彼女には感謝だ。
そもそもあの店で、俺のあんな場面を見られたのはまずかった。
三ヶ月ほど前におせっかいにも取引先から紹介された女性。やんわり断りを入れたが、どうしてもという相手の要望で付き合うこととなった。
これまでもこのような付き合いが数人続いたが、俺から連絡することはないので、我慢できずに相手がアクションを起こす。
引き止めることはないから、大概それで関係が終わる。
その女性とも一度だけ食事をしたが、以降仕事だと断っても連絡が止まなかった。ほとほと呆れたていた頃に、会社の近くまで来ているというから、目立たない店を選んで入ってみると、なんとそこには部下の田宮結衣がいた。
彼女は一人で熱心に何かを読み込んでいてこちらに気づく様子はない。
今更店を変えるわけにもいかず、隣のテーブルに着く。そこで予想通り女性からの別れ話となったが、田宮さんにはしっかり俺だと認識されてしまった。
すでに翌日には俺のアシスタントへ変更となる話をする予定だっかたら、かなりの気まずさを覚えたが、仕方ない。
彼女の仕事ぶりは真面目で、資料の隅々まで配慮が行き届いている。
加山の休暇中は、加山からの推薦で田宮さんに依頼することが多かったが、資料やデータは文句のつけようがないものばかりだった。
だから、田宮さんを指名でアシスタントをつけて欲しいという加山の要望にはなんの異論もなかった。
社長である父は、俺が今のポジションで働くことをよく思っていない。
跡を継ぐことを見据え、父を支える立場に立っていくべきであるという自覚はあるが、自分としてはまだ早計だ。
しかし加山の休暇中にわざわざ秘書課から人員を充てるなど、父もじわじわとプレッシャーをかけてくる。
ここまで進めた事業を部下に引き継ぐことに異論はないが、これからの会社の方針を左右する大切な時期でもある。
そこを誰かに任せてまで、自分の出世にこだわりたいとは思わない。
社内では俺が役員に選任されるという噂が先行している。全く無根の話ではないところがタチが悪い。
加山の復帰に際し秘書を戻したことで、一度父の機嫌を損ねている。裏で手を回されないように、ここらで父の機嫌を取っておくべきだろう。
悠真は社長秘書、平川貴也(ひらかたかや)に連絡を入れた。
K大からの同期でもある貴也は、入社3年目に秘書課に異動となり社長秘書を務めている。
「たまには違うところに誘ってくれてもいいんだぞ」
貴也はブツブツと言いながらもこうして悠真の誘いに応える。
会社近くのホテルの高層階ラウンジ。
他の社内メンバーと出会いにくいこの店はよく二人の落ち合う場所となっていた。
貴也は悠真の隣席に腰を下ろすと、ノンアルコールビールをオーダーする。
物静かな彼女の一面に驚いた。
いきいきとした表情でオアシスの素晴らしさを語る彼女。
失礼かもしれないが、可愛らしく思えて思わず笑ってしまった。
いつもは通らない路地。仕事を早めに切り上げてあの喫茶店の前を通ると、店内に彼女の姿が見えて、思わず足を止めた。
喫茶店でも、仕事中も先日のことを顔にも出さない彼女には感謝だ。
そもそもあの店で、俺のあんな場面を見られたのはまずかった。
三ヶ月ほど前におせっかいにも取引先から紹介された女性。やんわり断りを入れたが、どうしてもという相手の要望で付き合うこととなった。
これまでもこのような付き合いが数人続いたが、俺から連絡することはないので、我慢できずに相手がアクションを起こす。
引き止めることはないから、大概それで関係が終わる。
その女性とも一度だけ食事をしたが、以降仕事だと断っても連絡が止まなかった。ほとほと呆れたていた頃に、会社の近くまで来ているというから、目立たない店を選んで入ってみると、なんとそこには部下の田宮結衣がいた。
彼女は一人で熱心に何かを読み込んでいてこちらに気づく様子はない。
今更店を変えるわけにもいかず、隣のテーブルに着く。そこで予想通り女性からの別れ話となったが、田宮さんにはしっかり俺だと認識されてしまった。
すでに翌日には俺のアシスタントへ変更となる話をする予定だっかたら、かなりの気まずさを覚えたが、仕方ない。
彼女の仕事ぶりは真面目で、資料の隅々まで配慮が行き届いている。
加山の休暇中は、加山からの推薦で田宮さんに依頼することが多かったが、資料やデータは文句のつけようがないものばかりだった。
だから、田宮さんを指名でアシスタントをつけて欲しいという加山の要望にはなんの異論もなかった。
社長である父は、俺が今のポジションで働くことをよく思っていない。
跡を継ぐことを見据え、父を支える立場に立っていくべきであるという自覚はあるが、自分としてはまだ早計だ。
しかし加山の休暇中にわざわざ秘書課から人員を充てるなど、父もじわじわとプレッシャーをかけてくる。
ここまで進めた事業を部下に引き継ぐことに異論はないが、これからの会社の方針を左右する大切な時期でもある。
そこを誰かに任せてまで、自分の出世にこだわりたいとは思わない。
社内では俺が役員に選任されるという噂が先行している。全く無根の話ではないところがタチが悪い。
加山の復帰に際し秘書を戻したことで、一度父の機嫌を損ねている。裏で手を回されないように、ここらで父の機嫌を取っておくべきだろう。
悠真は社長秘書、平川貴也(ひらかたかや)に連絡を入れた。
K大からの同期でもある貴也は、入社3年目に秘書課に異動となり社長秘書を務めている。
「たまには違うところに誘ってくれてもいいんだぞ」
貴也はブツブツと言いながらもこうして悠真の誘いに応える。
会社近くのホテルの高層階ラウンジ。
他の社内メンバーと出会いにくいこの店はよく二人の落ち合う場所となっていた。
貴也は悠真の隣席に腰を下ろすと、ノンアルコールビールをオーダーする。

