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「思いのほか早く終わった様ですね」
平川さんの言葉にホッとしてしまう。
スマホから顔を上げた平川さんは、結衣のその顔を見て少し顔を顰めた。
「今日のところは仕方ありませんが、部長のアシスタントとしてそう顔に出してしまうのは良くありませんね。
あなたの働きが今の湊部長にとって欠かせないことは事実でしょうから、至らないと気づくところがあるのでしたら、改善することです。
加山さんもそれを望まれて、私に声をかけられたのでしょうから」
平川さんの視線は変わらず冷たいままだが、少しだけ言葉尻が優しく感じられた。
「ありがとうございます」
戸惑いながら返事をする。
「判断に時間をかけるのは私の主義ではありませんが、加山さんと湊部長に免じてしばらく様子を見させていただきましょう」
そうは言いながらも明らかに最初と空気の違う平川さんをみて、少し気持ちが落ち着いた。
「社長はオーナーにつかまって話し込んでるよ。
平川の待ち時間に付き合うよ。
田宮さんはどうせゆっくり食事とれなかっただろ?
どうだった?」
部長は結衣たちのテーブルに着くとコーヒーを注文し、結衣へ微笑みかけた。
オーナーなら長いな、と平川さんは渋い顔をしている。
「食事はとても美味しかったです。
前菜から盛り付けも綺麗で、どれも美味しくて」
食事の美味しさを伝えたいが、語彙力がなくてうまく表現できない。
「食事は、ね」
湊部長は、平川さんは目線を向け、プッと吹き出す。
平川さんは面食らった表情で固まっていた。
結衣はハッとして青ざめる。
「あのっ、いえっ、平川さんは話を聞いてくださって…。しょ、食事の時間もた、大変有意義で、した」
答えに詰まり、尻すぼみに答えると
「何度も言いますが、考えていることが全て表情に出るのは改善が必要でしょうね」
平川さんは結衣の言葉に被せるように軽く咳払いをした。
「も、申し訳ございません。平川さんにそんな顔ばかりさせてしまって…」
そのやりとりを見て、湊部長はついに笑い出す。
結衣はなんとも言えない恥ずかしさに、顔が熱くなるのを感じた。
「田宮さん、時々大胆なことがあるよな。
仕事にも活かしてくれると期待してる。
加山も言ってたよ。たまに驚かされる大胆さも君の良さだってね」
部長は笑いを落ち着ける様にコーヒーを口に運ぶ。
「比べるのは店に失礼だが、やっぱりオアシスのコーヒーは美味しいな」
声を幾分か顰めて結衣に話しかける。
部長がオアシスのコーヒーを気に入ってくれている!それだけで結衣は嬉しくなる。
「はい。
それに美子さんの料理も美味しくて胃袋掴まれてます」
「ああ、土曜日の昼食も美味しかったよ、あの時はありがとう」
「いえ、それは」
部長は優しく結衣に微笑みかけるが、思わず平川さんに視線を向けると目が合った。
平川さんは目線を逸らさずまっすぐとこちらを見ている。
「ほう、土曜日ですか。で、オアシスとは?」
探るような平川さんの口調は、秘書としていつも通りなのか、結衣にはわからない。
落ち着いていたはずの鼓動がまた鼓動が速くなる。
部長は気づいているのかいないのか、気にする様子もなく会話を続ける。
「オフィスの近くの珈琲店だよ。平川、知らないか?まあ、俺も少し前に初めて行ったんだが、田宮さんがそこの常連なんだ。
土曜日に田宮さんがオアシスの店主が作ってくれた昼食をオフィスに届けてくれたんだ。
田宮さん、この前はありがとう。
あれだけ美味いんだから、食事を出さないのはもったいないな」
「お仕事中に突然押しかけて、申し訳ありませんでした」
美子さんの料理を褒められて嬉しいが、平川さんの視線が気になり何も言えない。
「いや、俺が悪かった。休みなのに連絡したから資料のこと心配になったんだろ?
マスターご夫妻にも気を遣わせて悪かったな」
湊部長は何か気づいていたのだろうか。
結衣との話なのに、その視線は平川さんへ向けられている。
「どうやら、私の杞憂のようですね」
平川さんが息を吐き、それを見て部長は口元を緩めた。
「マスターご夫妻に差し入れのお礼も伝えたいし、また俺が行っても田宮さんの邪魔にはならないか?」
「邪魔だなんて!何なら私より部長がお店にいらっしゃったほうがいい宣伝になると思います。
あの女性といらっしゃった時なんて、ほんとドラマみたいで…」
しまった!
と思った時には、部長の表情は固まり、平川さんの目には好奇の色が浮かんで見えた。
「田宮さん、すみません。私はあなたのことを誤解していたかもしれません。
湊部長と加山さんのおっしゃる田宮さんの大胆さ、少し理解できたような気がします。信頼のおける部下のようで安心しました。
で、田宮さん、その女性とはどういった方でしたか?」
「部長、すみません…」
「まいったな。田宮さん、そこで謝るのはよくないな。
平川、この件は後日」
気まずそうにコーヒーを口に運び、部長は口を噤んだ。
「思いのほか早く終わった様ですね」
平川さんの言葉にホッとしてしまう。
スマホから顔を上げた平川さんは、結衣のその顔を見て少し顔を顰めた。
「今日のところは仕方ありませんが、部長のアシスタントとしてそう顔に出してしまうのは良くありませんね。
あなたの働きが今の湊部長にとって欠かせないことは事実でしょうから、至らないと気づくところがあるのでしたら、改善することです。
加山さんもそれを望まれて、私に声をかけられたのでしょうから」
平川さんの視線は変わらず冷たいままだが、少しだけ言葉尻が優しく感じられた。
「ありがとうございます」
戸惑いながら返事をする。
「判断に時間をかけるのは私の主義ではありませんが、加山さんと湊部長に免じてしばらく様子を見させていただきましょう」
そうは言いながらも明らかに最初と空気の違う平川さんをみて、少し気持ちが落ち着いた。
「社長はオーナーにつかまって話し込んでるよ。
平川の待ち時間に付き合うよ。
田宮さんはどうせゆっくり食事とれなかっただろ?
どうだった?」
部長は結衣たちのテーブルに着くとコーヒーを注文し、結衣へ微笑みかけた。
オーナーなら長いな、と平川さんは渋い顔をしている。
「食事はとても美味しかったです。
前菜から盛り付けも綺麗で、どれも美味しくて」
食事の美味しさを伝えたいが、語彙力がなくてうまく表現できない。
「食事は、ね」
湊部長は、平川さんは目線を向け、プッと吹き出す。
平川さんは面食らった表情で固まっていた。
結衣はハッとして青ざめる。
「あのっ、いえっ、平川さんは話を聞いてくださって…。しょ、食事の時間もた、大変有意義で、した」
答えに詰まり、尻すぼみに答えると
「何度も言いますが、考えていることが全て表情に出るのは改善が必要でしょうね」
平川さんは結衣の言葉に被せるように軽く咳払いをした。
「も、申し訳ございません。平川さんにそんな顔ばかりさせてしまって…」
そのやりとりを見て、湊部長はついに笑い出す。
結衣はなんとも言えない恥ずかしさに、顔が熱くなるのを感じた。
「田宮さん、時々大胆なことがあるよな。
仕事にも活かしてくれると期待してる。
加山も言ってたよ。たまに驚かされる大胆さも君の良さだってね」
部長は笑いを落ち着ける様にコーヒーを口に運ぶ。
「比べるのは店に失礼だが、やっぱりオアシスのコーヒーは美味しいな」
声を幾分か顰めて結衣に話しかける。
部長がオアシスのコーヒーを気に入ってくれている!それだけで結衣は嬉しくなる。
「はい。
それに美子さんの料理も美味しくて胃袋掴まれてます」
「ああ、土曜日の昼食も美味しかったよ、あの時はありがとう」
「いえ、それは」
部長は優しく結衣に微笑みかけるが、思わず平川さんに視線を向けると目が合った。
平川さんは目線を逸らさずまっすぐとこちらを見ている。
「ほう、土曜日ですか。で、オアシスとは?」
探るような平川さんの口調は、秘書としていつも通りなのか、結衣にはわからない。
落ち着いていたはずの鼓動がまた鼓動が速くなる。
部長は気づいているのかいないのか、気にする様子もなく会話を続ける。
「オフィスの近くの珈琲店だよ。平川、知らないか?まあ、俺も少し前に初めて行ったんだが、田宮さんがそこの常連なんだ。
土曜日に田宮さんがオアシスの店主が作ってくれた昼食をオフィスに届けてくれたんだ。
田宮さん、この前はありがとう。
あれだけ美味いんだから、食事を出さないのはもったいないな」
「お仕事中に突然押しかけて、申し訳ありませんでした」
美子さんの料理を褒められて嬉しいが、平川さんの視線が気になり何も言えない。
「いや、俺が悪かった。休みなのに連絡したから資料のこと心配になったんだろ?
マスターご夫妻にも気を遣わせて悪かったな」
湊部長は何か気づいていたのだろうか。
結衣との話なのに、その視線は平川さんへ向けられている。
「どうやら、私の杞憂のようですね」
平川さんが息を吐き、それを見て部長は口元を緩めた。
「マスターご夫妻に差し入れのお礼も伝えたいし、また俺が行っても田宮さんの邪魔にはならないか?」
「邪魔だなんて!何なら私より部長がお店にいらっしゃったほうがいい宣伝になると思います。
あの女性といらっしゃった時なんて、ほんとドラマみたいで…」
しまった!
と思った時には、部長の表情は固まり、平川さんの目には好奇の色が浮かんで見えた。
「田宮さん、すみません。私はあなたのことを誤解していたかもしれません。
湊部長と加山さんのおっしゃる田宮さんの大胆さ、少し理解できたような気がします。信頼のおける部下のようで安心しました。
で、田宮さん、その女性とはどういった方でしたか?」
「部長、すみません…」
「まいったな。田宮さん、そこで謝るのはよくないな。
平川、この件は後日」
気まずそうにコーヒーを口に運び、部長は口を噤んだ。

