休息はオアシスで

【貴也】

目の前で俯く田宮結衣の姿に、内心ため息をつく。
立場上表立って相手に対して感情を露わにすることは避けているが、こんな食事の場で俺はあえて話しかけづらい雰囲気を作っていた。


社長と悠真の食事の時間を加山に知らせた時、当日は彼女を同行させるからよろしくとあいつが一方的に決めてきた。
土曜の件を知らないのかと思いながら不機嫌そうに返事をすると、
「結衣ちゃんのこと欲しくなっても秘書課になんかやらないわよ」
とこれまた嬉しそうに話す。
あれこれ話すのも面倒で「そりゃ楽しみだな」と鼻で笑って答えてやった。


悠真のステータス目当てに近づく女性は多い。
偶然出会した土曜日の彼女のように。
早い段階でわかったことが幸いだろう。
加山からの推薦での専任。しかも悠真の評価も悪くない。ところがそんな彼女も所詮目的はこれなのかと呆れた。ここで釘を刺しておけばこれ以上のことはしないだろう。辞めるならそれまでだ。
まったく、加山も悠真も見る目がない。

と、彼女が手がけた資料を見るまでそう思っていた。


自分が知る事実のみで彼女を非難するのは簡単だが、まずは仕事の話を切り口にしようと事前に田宮結衣の情報を確認した。

直近大型契約の下資料を担当。
資料はどれもまとめ方もわかりやすく、データ含め内容も的確だ。
加山の育児休暇が始まってから悠真の担当に彼女の名前がちらほら確認できるようになり、加山復帰の直前には悠真の資料の多くは彼女が担っていた。
それに加え悠真の専属になるまでは課員数名も受け持っている。
担当人数だけをみると他のアシスタントと変わりないが、担当しているのは成績上位者ばかり。
恐らく他のアシスタントよりも受け持ちは多かっただろう。
なるほど資料だけ見れば、加山と悠真の評価に狂いはない。


再び目の前の彼女に目を向ける。
服装や化粧のせいか年齢より幼く見える見た目、どこか怯えたように自信無さげな様子からは資料から見える有能さは感じられない。

土曜も華やかな服装ではなかったし、今日の悠真との会話でも媚びているようにも見えなかった。



まあ、そろそろか。
スッと顔を上げ、これまでとは違う微笑みを浮かべ彼女を見る。

「社長と湊部長も短い時間の食事にはならないでしょうから、少し話しましょうか」

ほとんど会話もないままデザートまで進んだところで、大仰に腕時計を見て話を切り出した。

「田宮さんの手がけている資料、大変よく出来ていて感心しましたよ。
今回のA社の下資料もそのまま出してもおかしくない内容です」

「あ、ありがとうございます。
弥生さんにご指導いただいているおかげです」

じっと彼女を見る。
その表情に戸惑いはあっても傲慢さは見えない。

内容についていくつか質問すると、どの答えも状況が見えてわかりやすい。
担当する資料を作業として終わらせていない、彼女の仕事に対する姿勢が窺える。
話すうちに彼女の表情も幾分かほぐれてきた。

「加山さんはあなたのことを心配していましたが、その様子ですと問題なく進められているようですね」

「今のところ順調だと弥生さんからは…。でもそれも弥生さんのフォローがあってのことですので、弥生さんに安心していただけるようにがんばります」

正面からこちらを見る彼女の目には先ほどまでの怯えた様子はなく、力強さがある。

仕事の面での心配は無さそうだ。
この様子なら、俺が余計な手出しをすることもないだろう。
しかし備えるに越したことはない。

「それにしても湊部長の専属は大変でしょう。
彼は本当にお忙しい方ですから、くれぐれも余計なことに時間を割かなければならなくなるようなことは避けていただくよう、お願いしておきます」

彼女へ釘を刺すよう冷たく微笑むと、再び彼女の表情がこわばった。

「もちろんです!
アシスタントを外されない様に努力します」
表情とは裏腹にその目は強くこちらを見つめていた。

ちょうど手元のスマホが震える。
彼女に断りを入れ、スマホを見ると悠真から『こちらに合流する』とのメッセージだった。