落ち着かない時間がこのまま社に戻るまで続くのか。
結衣は部長に気づかれないくらい小さなため息をつく。バッグを持ち直すふりをしてそっと腕時計を見た。
正午まであと三十分。
普段社長と顔を合わせる機会のない結衣は、朝から落ち着かない時間を過ごした。
部長に促され会食の時間より早めにオフィスを出ると、会食するレストランではなく階下のカジュアルなレストランへやってきた。
案内され席に着くが、もちろん落ち着かない。
テーブル毎にゆったりとスペースが取られている落ち着いたフロア。個室メインの階上のレストランよりカジュアルとはいえ、系列店でこちらも高級店であることには変わりない。
価値のわからない結衣でも、内装や調度品が明らかに質の良いものだと感じる。
そこにいて結衣は、手持ちの中から一番くたびれていないスーツを選んだものの、いつも通りの黒のビジネススーツだ。
シャツは少しだけ襟元が華やかなものを着用したが、お客様というよりサービススタッフか、面接を受けにきたようにも見える。
部長と同じテーブルに着く場違いな自分がより際立って思えて居心地が悪い。
湊部長はいつものようにスラリとした長身の体型によく似合う落ち着いた生地のスーツを着こなしている。普段と変わらないスタイルだが、もちろんこの店に来ても違和感がない。
この店の雰囲気にもぴったりだし、あの時の、オアシスで部長と会っていた女性とのデートはこんなところて食事をしたりするのかな、と想像した。
そうすると、仕事とはいえ自分が座っていることを申し訳なく思う。
「田宮さんはこのまま待機してくれ。
社長が到着したら秘書の平川と交代するよ」
「は、はい」
部長と女性のデート姿を思い浮かべていた結衣は慌てて返事をする。
自分は平川さんと話すためにここに連れてこられたとはいえ、いざ対面する時が近づくと息が詰まる。
社食での「相談に乗ってもらうといい」という弥生さん声。あの時平川さんは笑顔を向けてくれたが、土曜日は…。
こんなことなら土曜の件をすぐにでも弥生さんに話しておけばよかった。そうすれば弥生さんも今日この場の手配はしなかっただろう。
「あの、ここで平川さんをお待ちして、社長のお出迎えには伺わなくてよいのでしょうか?」
「今日はどちらかといえば私的な会食に近いから、気を遣わなくても構わないよ。
田宮さんはここで平川と食事を楽しんだらいい」
社長との対面がないことはホッとするが、これからの時間を考えると、結衣は不安を隠せない。
部長はそんな結衣を見て、どう思ったのか微笑んだ。
「湊部長もそんな顔なさるんですね」
結衣の背後から重い男性の声が聞こえ、驚いて顔を上げると、平川さんが冷ややかな視線で部長を見ている。
結衣は慌てて立ち上がり、振り返って一礼した。
「早かったな。親父は暇なのか?」
湊部長は平川さんの冷ややかな視線を気にすることなく、話しかける。
「そんなわけないだろ。お前との昼食を楽しみにしてるんじゃないのか。
仕事にならないから予定を切り上げたよ。
後の予定に響くから、しっかり機嫌とってくれよ」
平川さんはさらに不機嫌そうな表情になり、ジロリと部長を睨みつけた。
部長はそれに笑い返すと「善処しますよ」と平川さんに席を譲るように立ち上がる。
「ところで田宮さんは平川と面識があるのか?
これまで仕事での関わりはないと思うが」
部長は平川さんと結衣を交互に見る。
「先日社食でお話ししたのが初めてで、土曜日にロビーでもお会いしました。
弥生さんがお話しする機会を作ってくださって。
平川さん、今日はありがとうございます」
結衣が答えると、平川さんは「そういうことです」と表情を変えないまま多くは語らず席に着く。
「あの、部長にご迷惑をかけないように気をつけます。
社長がお待ちですので、どうぞ向かわれてください」
結衣は精一杯普段通りの態度で部長へ笑顔を向ける。
部長は何か言いたげに結衣を見たが、平川さんに何か声をかけると社長との会食へと向かった。
結衣は部長に気づかれないくらい小さなため息をつく。バッグを持ち直すふりをしてそっと腕時計を見た。
正午まであと三十分。
普段社長と顔を合わせる機会のない結衣は、朝から落ち着かない時間を過ごした。
部長に促され会食の時間より早めにオフィスを出ると、会食するレストランではなく階下のカジュアルなレストランへやってきた。
案内され席に着くが、もちろん落ち着かない。
テーブル毎にゆったりとスペースが取られている落ち着いたフロア。個室メインの階上のレストランよりカジュアルとはいえ、系列店でこちらも高級店であることには変わりない。
価値のわからない結衣でも、内装や調度品が明らかに質の良いものだと感じる。
そこにいて結衣は、手持ちの中から一番くたびれていないスーツを選んだものの、いつも通りの黒のビジネススーツだ。
シャツは少しだけ襟元が華やかなものを着用したが、お客様というよりサービススタッフか、面接を受けにきたようにも見える。
部長と同じテーブルに着く場違いな自分がより際立って思えて居心地が悪い。
湊部長はいつものようにスラリとした長身の体型によく似合う落ち着いた生地のスーツを着こなしている。普段と変わらないスタイルだが、もちろんこの店に来ても違和感がない。
この店の雰囲気にもぴったりだし、あの時の、オアシスで部長と会っていた女性とのデートはこんなところて食事をしたりするのかな、と想像した。
そうすると、仕事とはいえ自分が座っていることを申し訳なく思う。
「田宮さんはこのまま待機してくれ。
社長が到着したら秘書の平川と交代するよ」
「は、はい」
部長と女性のデート姿を思い浮かべていた結衣は慌てて返事をする。
自分は平川さんと話すためにここに連れてこられたとはいえ、いざ対面する時が近づくと息が詰まる。
社食での「相談に乗ってもらうといい」という弥生さん声。あの時平川さんは笑顔を向けてくれたが、土曜日は…。
こんなことなら土曜の件をすぐにでも弥生さんに話しておけばよかった。そうすれば弥生さんも今日この場の手配はしなかっただろう。
「あの、ここで平川さんをお待ちして、社長のお出迎えには伺わなくてよいのでしょうか?」
「今日はどちらかといえば私的な会食に近いから、気を遣わなくても構わないよ。
田宮さんはここで平川と食事を楽しんだらいい」
社長との対面がないことはホッとするが、これからの時間を考えると、結衣は不安を隠せない。
部長はそんな結衣を見て、どう思ったのか微笑んだ。
「湊部長もそんな顔なさるんですね」
結衣の背後から重い男性の声が聞こえ、驚いて顔を上げると、平川さんが冷ややかな視線で部長を見ている。
結衣は慌てて立ち上がり、振り返って一礼した。
「早かったな。親父は暇なのか?」
湊部長は平川さんの冷ややかな視線を気にすることなく、話しかける。
「そんなわけないだろ。お前との昼食を楽しみにしてるんじゃないのか。
仕事にならないから予定を切り上げたよ。
後の予定に響くから、しっかり機嫌とってくれよ」
平川さんはさらに不機嫌そうな表情になり、ジロリと部長を睨みつけた。
部長はそれに笑い返すと「善処しますよ」と平川さんに席を譲るように立ち上がる。
「ところで田宮さんは平川と面識があるのか?
これまで仕事での関わりはないと思うが」
部長は平川さんと結衣を交互に見る。
「先日社食でお話ししたのが初めてで、土曜日にロビーでもお会いしました。
弥生さんがお話しする機会を作ってくださって。
平川さん、今日はありがとうございます」
結衣が答えると、平川さんは「そういうことです」と表情を変えないまま多くは語らず席に着く。
「あの、部長にご迷惑をかけないように気をつけます。
社長がお待ちですので、どうぞ向かわれてください」
結衣は精一杯普段通りの態度で部長へ笑顔を向ける。
部長は何か言いたげに結衣を見たが、平川さんに何か声をかけると社長との会食へと向かった。

