休息はオアシスで

人がまばらで静かなだけで、仕事場がいつもと違った景色に見える。

休日のオフィスに足を踏み入れるのは初めてで、かなり緊張しながらビルに入ったが、思ったよりもフレキシブル勤務で働いている人が多く、結衣が働くフロアでも、デスクに向かっている人がちらほら見えた。

オフィスでは湊部長が自席でパソコンに向かっているのが見える。電話で誰かとやりとりしているようだ。

湊部長は結衣がオフィスにいる時間帯には自席にいないことが多いからか、あまり見慣れない光景だ。部長の厳しくもある横顔が、結衣の目には普段よりさらに精悍に映る。


結衣が自席へと向かおうとしたとき、スマホを耳に当てたまま顔を上げた湊部長と目が合った。

部長は一瞬結衣に目を止めたが、そのままパソコン画面に視線を戻す。
結衣の気まずさが倍増し、先ほどまでとは違う緊張に襲われる。
このまま立ち去ろうかとも思ったが、気付かれているのに黙って帰ることもできず、紙袋を自分のデスクの端に置くと静かに腰掛けた。

やっぱり来ちゃいけなかったな。
電話を終えられたらなんて言おう…。

結衣が俯いていると、湊部長の電話が終わり立ち上がる気配がした。

「田宮さん?」

部長の不審げな声色に、慌てて結衣も立ち上がり、部長へ向かって深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。
私の提出が遅かったので部長にご迷惑をおかけして。あの、会社の近くにいましたのでちょっと気になって」

「そうか、わざわざ立ち寄らせてすまない。
田宮さんの提出は遅くなかったし、他もあって出社してるから気にするな。
だが、せっかく来てくれたんならひとつ確認いいか?」

部長の優しい声に、結衣が顔を上げると、部長は自席に広げた資料の一つを手に取り、結衣に向かって示している。
結衣は戸惑いながら部長の席へ近づくが、部長は結衣の恐縮など、気にも留めない部長の様子に、結衣は拍子抜けしてしまう。

湊部長から直接仕事の指示を受けるようになって間もないが、弥生さんが育休の間に引き受けた仕事でも、よいものは直接褒めて、改善が必要ならすぐにアドバイスをくれた。一時的に引き受けた立場だと思っていたが、労いも叱咤もきちんと仕事を見てくれるのがありがたかった。
『詫びる先は俺じゃないだろ?上司に頭を下げても自分の気が済むだけだ。仕事で挽回しろ』営業担当の大きなミスが発覚したときも、動揺してただ頭を下げる部下に、部長はすぐに気持ちを切り替えることを促した。
もちろん本人が猛省していたからだと思うが、無駄を嫌うドライさとは違う、ちゃんと人を見てくれていると感じた。
部長の専任になって気づいたのは、営業もアシスタントも部長は個人の仕事を細かく把握してきちんと評価してくれる。
だから経験が浅くても若くても、的確に抜擢し、配置する。

他部署の同期からはよく上司の愚痴を聞かされるが、この部署ではまずもってそんな話になることがない。
湊部長の下だから働きやすいのだ、ということがよくわかる。

「この内容は叩き台にもなかったと思うが、田宮さんが?」

そこは結衣が検証値から判断して書き加えた部分だ。

「はい。
検証値を見ると指示いただいた叩き台より伸びると考えて、上積みしてみました。
今起爆剤が欲しいA社なら興味を示すと思います。
この部分でーーー」