「さぁ」

憎悪にも似た感情を含むない交ぜの笑みを浮かべ、私は紅に促す。

「剣道の試合だ。丸腰では成立しないだろう。壁にかけられている竹刀を取れ」

剣道場には部員の人数分よりも多めの竹刀が常に用意されている。

どれも同じ作り、同じ重さだ。

得物の違いで優劣が決まる事はあるまい。

真に実力だけの勝負だ。

ところが。

紅は竹刀には一瞥もくれず、剣道場を歩み。

「!?」

剣道場片隅の掃除用具入れをガチャリと開けた。

中から出したのは、床掃き用の箒。

「俺はこれでいい」

「……!」

その行為で、私は怒りに赤くなった。