稽古の途中、この男が剣道場に見学に来たのも気づいていた。

私の一挙手一投足を見つめていたのも知っていた。

だから、勝負を挑まれても若干の驚きでしかなかったのだ。

…紅は学生服のまま剣道場の中央に立つ。

私も立ち上がり、竹刀片手に紅と対峙した。

面はかぶらない。

こんな素人相手に面をかぶるなど、恐れをなしているようで私のプライドが許さなかった。

「お、おい、早乙女」

剣道部の部長が私の行動を止めようとするが。

「ちょっと腕試しをするだけだ。怪我などあるまい」

振り向きもせず、しかし若干の威圧を込めた声で、私は部長を制した。

上級生、しかも部長。

彼のプライドと安全を守る為になるべくやんわりと言ったつもりだったが、本心は、

『邪魔をするな』

その一言に尽きた。