届けたい音、届かない想い~The sound I want to deliver, the feelings that cannot reach.~

午後の授業は、全く頭に入ってこなかった。

先生の声は、遠くでなっていて、耳から入っても片方から抜けている感じ。

ノートをとっていても、気づけばノートをとる手は止まっていて、意識は別のほうにいた。

そして、ノートの端には小さく落書きをした。

楽器のイラスト。

頭の中はずっと部活のことに向いている

ユーフォニアムの音。

先生の言葉。

あと、心華に言われたあの一言ーー「前より本物って感じ」

その言葉がうれしくて、頭の中でリフレインする。

終りを告げるチャイムが鳴ると、私の頭は一気に部活モード。

でも、担任の長ったらしい話が始まり、現実に引き戻される。

ぼんやり聞きながら「早く終われ」と念じていた。

ようやく挨拶が終わると、すぐに教室を出た。

部室に向かう足取りは、いつも軽い。

廊下には、楽器ケースを持った部員がちらほら。

フルートや、クラリネット、トランペットーー軽い楽器は持参している生徒が多い。

心華も、持参している部員の一人だ。

みんなそれぞれ、楽器を持っていて、それぞれの場所に向かっている。

私も楽器倉庫の中からユーフォニアムを取り出す。

部室に入るとすでに何人か練習していた。

私はユーフォニアムを席において、マウスピースを外して洗い場に向かう。

蛇口をひねると冷たい水が流れる。

マウスピースを指先でそっと洗う。

借り物だけど、十分私の音は出せる。

洗い終わると、席に戻りマッピをそっと口に添える。

金属の冷たい感触で気持ちも引き締まる。

深く息をすう。

肺が膨らみ、勢いよく楽器に吹き込む。

最初の一音が少し揺れて、集中が途切れた。

でも、すぐに安定して、部室の空気に溶けていく。


音が消えた後も、かすかな振動が残っている。

ユーフォニアムを膝に乗せたまま目を少しだけ閉じると、遠くでトランペットのメロディーが聞こえてきた。

私はそこのメロディー部分を分析して、内緒でデュエットする。

一人での合奏。

メロディーの音は少し小さいけど、しっかりなじんだ。

ふとその瞬間、花恋先生の言葉を思い出した。

「音っていうのは、気持ちもわかるの。楽しく吹いてるときには音も楽しいし。」

その時は、なんとなく素通りさせてしまったけれど、今ではなんとなくわかった気がする。

さっきの音は、楽しかった。

自分の気持ちが乗っていた。

「、、、。先生みたいになりたいな」

そう、ふと思った。

私はもう一度、マウスピースに唇を添えた。

今度の音は、さっきよりもまっすぐだった。

少しでも、先生に近づけたらいいな。