練習が終わった後、私はユーフォニウムのケースを片付け、廊下を歩いていた。  

部室の外はすっかり夕方で、窓から差し込む夕日の光が床に長く伸びている。

「結来~、やっほー」

声をかけてきたのは、同じ2年のオーボエ担当、心華《こはる》だった。  

心華は、明るくて、おしゃれで、すっごく今どきかわいいJK。  

誰とでも仲良くなれそうな、ふんわりとした可愛らしい雰囲気をまとっている。

「花恋先生、いい感じだね」

「うん。本気になってくれそう」

小さく笑い合った。

 心華との会話は、すごく弾む。  

人見知りの性格が嘘みたいに、自然に言葉が出てくる。

「そーいえば結来、褒められてたじゃん!やっぱりさすが~」

「いやいや、全然うまくないんだけどなー」

「ま、でもよかったじゃん。低音なのに聞いてくれるって、レアだよねw」

「ん、今のちょっと馬鹿にしたでしょ」

「ふふ、ばれたー」

でも、本当にその通りだった。

 低音なのに、ちゃんと聴いてくれていた。

 それが、すごく嬉しかった。

誰かに音を聴いてもらえるって、こんなに心が温かくなるんだ。

 それを、心華がわかってくれているのも、嬉しかった。

「……ありがと、心華」

「え、なに急に。照れるじゃん~」

ふざけたように笑う心華の横顔を見ながら、私は少しだけ思った。

吹奏楽――楽しいかもしれない。

 そう思えたことが、今日の一番の収穫だった。