何日かが過ぎて、部活の空気にも少しずつ慣れてきた。

 合奏の時間が、最初は緊張でいっぱいだったのに、今では少しだけ楽しみに感じるようになっていた。

朝、目覚ましが鳴る。  

以前なら、布団の中で何度も「あと五分だけ」と願っていたのに、最近はすっと起きられるようになった。

 気だるさも、回を重ねるうちに少しずつ消えていった。

その日の練習の日、花恋先生は、一人一人に声をかけていた。

「トランペット、良い音してるからもうちょいベルアップしてみて」

「フルート、見た感じはいいから頭、まっすぐしてみて」

そして、私のところに来た時、先生は、何か気が付いたような感じで言った。

「結来、、、もしかしてピアノ習ってた?」

私は驚いて目を見開いた。

「あ、はい。今もまあ習ってます」

「やっぱり!音程がすごくよく取れてる。」

そんな風に言われたことがなくて、驚いた。

今まで、こんな低音をじっくり聞く人なんていないと思っていた。

後ろで、とにかくなっているって感じの目立たない存在。

でも、先生にはちゃんと聞こえてた。

「その調子でがんばって」

胸の奥に花が開いた感じ。

自分の音を聞いてもらっている。

それだけで、明日も頑張ろうと思えた。

帰り道、電車に揺られながらぼんやりと思っていた

「吹奏楽、、。楽しいかも、、。」

ぼんやり眺めながら入部したときのことを思いめぐらせていた。

なんで吹部に入ったんだっけ、、。


吹奏楽部に入った理由なんて、たいしたものじゃなかった。

親に「部活は何か入っておきなさい」と言われて、ピアノを少し習っていて、スポーツも苦手な私は、なんとなく音楽系を選んだだけだった。

入部したばかりの頃は、正直言って「続けられるかな」と不安だった。


ユーフォニアムなんて、名前すら知らなかったし、楽器の重さに驚いたし、音を出すのも難しかった。  

周りの先輩たちはみんな上手で私はただ「音を出すだけ」で精一杯だった。

練習時間も、平日はひたすら個人練習一人で黙々と、何度も同じ曲を吹き続けるだけだったし、先輩たちが熱心に練習する姿を見て、なんでこんな楽しそうなんだろう、つまらないのに、とも思っていた。

でも、何度も合奏を重ねていくうちに、少しずつ音が重なっていく感覚がわかってきた。

金曜日になると、「明日は合奏だ!」と心が弾む。

 そんな自分に気づいて、少し驚いた。

 あんなに面倒くさがりだったのに、今では部活が待ち遠しいなんて。

花恋先生の存在も、少しずつ部に馴染んできた。

最初はみんな戸惑っていたけれど、先生の指導は丁寧で、時に厳しく、でもその中にちゃんと愛情がある。

私はまだ、うまく吹けない。  

でも、少しずつ、音楽が好きになってきている。

それだけは、確かだった。