音楽室の扉を開けた瞬間、空気が少し変わった気がした。
いつもと同じはずの放課後、同じ部室、同じ仲間たち。
けれど、今日は何かが違う。
私――希月結来(きづき ゆら)は、ユーフォニアムのケースを抱えながら、そっと足を踏み入れた。
ざわつく部員たちの声が、どこか落ち着かない。
理由はわかっている。
今日から、顧問の先生が変わるのだ。
「こんにちはー」
その声は、思ったよりも柔らかく、けれどはっきりと部屋に響いた。
私たちの視線が一斉に扉の方へ向く。
そこに立っていたのは、見慣れない女性だった。
様子を窺うようにそっと、音楽室に入ってくる。
「初めまして。今日から吹奏楽部の顧問になります、高橋 花恋です。前は音東中学校で教えていました。よろしくお願いします」
そう言って微笑んだその人は、まるで花のようだった。
優しくて、あたたかくて、でもどこか近づきがたい美しさをまとっている。
肩までの髪はゆるく巻かれ、シャツにカーディガンを羽織っている。
シンプルなコーデだけど、すごくおしゃれに見えた。
目元はくっきり二重、長いまつ毛に、しっかりアイライン
優しめのコーデにきりっとした顔立ち。
すごくかわいらしい感じときれいめの感じが混ざっている。
私は思わず目をそらした。
こんなに綺麗な人が、私たちの顧問になるなんて、想像もしていなかった。
前の顧問――佐野先生は、明るくて、おもしろくて、部員たちにとても人気があった。
だから、今朝「顧問が変わる」と聞かされたとき、部室には小さなどよめきと、ため息が広がった。
みんな、まだその現実を受け入れきれていない。
そんな空気の中での花恋先生の登場に、誰もが戸惑っていた。
「いきなりだけど、みんなのことを知りたいから、自己紹介してもらってもいいですか?」
その言葉に、部室の空気が一瞬止まった。
自己紹介――。
私は、心の中で小さくため息をついた。
苦手なのだ。
人前で話すこと。注目されること。
順番が回ってくるまでの時間が、やけに長く感じた。
「え、っと……希月結来です、ユーフォニアム担当です」
声はやっぱり小さくて、自分でも聞き取れるか不安だった。
震える手を隠すように、ユーフォニアムをぎゅっと握りしめる。
でも――
「結来さん、よろしくね」
花恋先生は、私の方を見て、ふわりと笑ってくれた。
その笑顔で、胸の奥が少しだけ温かくなった。
その後も、ひとりひとりの自己紹介に、先生は丁寧に耳を傾けていた。
名前を呼び返したり、楽器について質問したり、まるで私たちのことを本当に知ろうとしてくれているようだった。
「じゃあ、せっかくだし……合奏してみようか」
自己紹介が終わると、先生はそう言って、指揮台の前に立った。
その姿は、どこかぎこちなくもあった。
楽譜を開き、楽器を構える。
私は深呼吸をひとつして、ユーフォニアムのマウスピースに唇を当てた。
いつもと同じはずの放課後、同じ部室、同じ仲間たち。
けれど、今日は何かが違う。
私――希月結来(きづき ゆら)は、ユーフォニアムのケースを抱えながら、そっと足を踏み入れた。
ざわつく部員たちの声が、どこか落ち着かない。
理由はわかっている。
今日から、顧問の先生が変わるのだ。
「こんにちはー」
その声は、思ったよりも柔らかく、けれどはっきりと部屋に響いた。
私たちの視線が一斉に扉の方へ向く。
そこに立っていたのは、見慣れない女性だった。
様子を窺うようにそっと、音楽室に入ってくる。
「初めまして。今日から吹奏楽部の顧問になります、高橋 花恋です。前は音東中学校で教えていました。よろしくお願いします」
そう言って微笑んだその人は、まるで花のようだった。
優しくて、あたたかくて、でもどこか近づきがたい美しさをまとっている。
肩までの髪はゆるく巻かれ、シャツにカーディガンを羽織っている。
シンプルなコーデだけど、すごくおしゃれに見えた。
目元はくっきり二重、長いまつ毛に、しっかりアイライン
優しめのコーデにきりっとした顔立ち。
すごくかわいらしい感じときれいめの感じが混ざっている。
私は思わず目をそらした。
こんなに綺麗な人が、私たちの顧問になるなんて、想像もしていなかった。
前の顧問――佐野先生は、明るくて、おもしろくて、部員たちにとても人気があった。
だから、今朝「顧問が変わる」と聞かされたとき、部室には小さなどよめきと、ため息が広がった。
みんな、まだその現実を受け入れきれていない。
そんな空気の中での花恋先生の登場に、誰もが戸惑っていた。
「いきなりだけど、みんなのことを知りたいから、自己紹介してもらってもいいですか?」
その言葉に、部室の空気が一瞬止まった。
自己紹介――。
私は、心の中で小さくため息をついた。
苦手なのだ。
人前で話すこと。注目されること。
順番が回ってくるまでの時間が、やけに長く感じた。
「え、っと……希月結来です、ユーフォニアム担当です」
声はやっぱり小さくて、自分でも聞き取れるか不安だった。
震える手を隠すように、ユーフォニアムをぎゅっと握りしめる。
でも――
「結来さん、よろしくね」
花恋先生は、私の方を見て、ふわりと笑ってくれた。
その笑顔で、胸の奥が少しだけ温かくなった。
その後も、ひとりひとりの自己紹介に、先生は丁寧に耳を傾けていた。
名前を呼び返したり、楽器について質問したり、まるで私たちのことを本当に知ろうとしてくれているようだった。
「じゃあ、せっかくだし……合奏してみようか」
自己紹介が終わると、先生はそう言って、指揮台の前に立った。
その姿は、どこかぎこちなくもあった。
楽譜を開き、楽器を構える。
私は深呼吸をひとつして、ユーフォニアムのマウスピースに唇を当てた。



