翡翠の一輪花














秋の夜風が頬をくすぐる。


冷たくてきもちいい…


『翡翠?』


振り返ると、そこには葵がいた。


「葵…?」


『こんなところでどうしたんだ?』


「…ちょっと風にあたりたくなっただけ」


『…そうか』


隣に腰掛けて、私と同じように夜空を見上げた葵。


「きれいだね」


『ああ』


「私、ここから見る夜空が一番すき」


『そうか』


嬉しそうにはにかんだ葵はそっと私の頬に手をそえた。


『翡翠、…』


「なに?」


『帰ってきてくれて、本当によかった…』


「…私もはやく葵たちに会いたかったから」


『もう、会えないかと思った』


「そんなことないよ」


『俺、翡翠がいないと生きていけないから』


「大げさ…」


そんなことを口にしながら、どこか喜んでしまっている自分がいた。


『俺、翡翠がいなくなってからも頑張って修行した。立派な若頭になって、翡翠の隣に立てるように』


「もう、十分だよ…」


『そんなことない。若頭になるにはまだまだ…』


再びあたりが静寂につつまれる。


「もう、十分だよ。もう、十分カッコよくなった。若頭っぽくなった」


『っ///』


月明かりだけでもわかる。


葵の顔が真っ赤になっていることが。


『翡翠、俺…』


月の光がきらりと反射した漆黒のひとみに吸い込まれそうになる。


目が離せない。


『葵さま〜?どこですか〜?』


『「!」』


この声…


『はぁ…』


ため息をついた葵は、


私の目を手のひらで覆って…










『じゃあな』


葵が立ち上がって廊下の奥へ歩いて行く。


ひとり取り残された私は、ポカンとその後ろ姿を見つめることしかできなかった。