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宴会がひと段落したあと、私はひとりで風呂場へ向かった。
……昔から変わらない、広い檜風呂。
湯気の立ちこめる静かな空間に、ようやく少しだけ肩の力が抜ける。
「……はぁ」
熱い湯に肩まで浸かりながら、ゆっくり息を吐く。
今日だけで、いろんなことがありすぎた。
組に戻ってきて。
紺に会って。
組長たちと話して。
――そして、葵。
五年ぶりに見た顔は、昔より少し大人びていて。
でも笑い方とか、声とか、そういうところは変わってなくて。
……だから余計に、苦しかった。
「……婚約者、か」
ぽつりと呟いた声が、静かな浴場に小さく響く。
あの距離感を見る限り、ちゃんと大事にしてるんだろうな。
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
(……何期待してたんだろ)
自嘲するように息を吐いて、目を閉じる。
────そのときだった。
ガラッ
「翡翠さーん!」
「っ!?」
勢いよく扉が開く。
びくっと肩を揺らいて振り返ると、そこにはなぜか花梨が立っていた。
「……は?」
思わず素の声が出る。
花梨はそんなことお構いなしに、ぱたぱたと中へ入ってきた。
「やっぱりここにいたんですねっ!」
「いや、なんでいるの……?」
「えへへ、戻ってきちゃいました!」
まるで秘密基地に忍び込んだ子供みたいな笑顔。
「……帰ったんじゃなかったの」
「帰りましたよ?」
「じゃあなんで」
「葵様に送ってもらったあと、やっぱり翡翠さんともっと話したくなっちゃって!」
悪びれた様子ゼロ。
むしろキラキラしている。
………なんというか、
「……自由すぎる」
「よく言われます!」
全然反省していない返事に、思わず小さく息が漏れる。
花梨は慣れた様子で服を脱ぐと、そのまま隣へ入ってきた。
「はぁ〜……広い〜!」
ばしゃ、と湯が揺れる。
……近い。
距離感が近い。
「……花梨」
「はい?」
「普通、婚約者がいる男の昔馴染みに、こんな距離で来る?」
「?」
きょとん、とした顔。
本当に意味が分かっていない顔だった。
「だって翡翠さん、すごく優しいですし」
「……それ関係ある?」
「あります!」
即答。
「それに、葵様が翡翠さんの話するときだけ、ちょっと違うんです」
「……え」
思わず動きが止まる。
花梨は湯船に顎まで浸かりながら、のんびり続けた。
「なんていうか……すっごく安心した顔するんですよね」
その一言が、静かに胸へ落ちる。
湯の熱とは違う熱が、じわっと広がった。


