自分の気持ちに気付いていたのも裕司だけだった。

裕司には不毛な片思いも、いい加減にしたらと何度も言われたが、高校も大学も由里の後を追い続けた。

大学での三人の交流は今でも幸せな思い出であり宝物だ。

裕司に誘われて二人で会社を興したのも、裕司のそばにいれば由里の近況を知れるし会う事も叶う。

そんな想いがあったからだ。そう言ったら裕司はあきれるだろう。

案外感付かれているかもしれないが…由里がニューヨークに転勤になるまでは、月に二~三回は三人で会って食事したり遊びに行ったりしていた。

大学の延長のような友達付き合いだったが、それでも笹森は幸せだった。

でも、由里は本当に鈍感で笹森の気持ちには、全然気付いていない。

今でも、笹森が由里の側にいるのは昔馴染みだから位にしか思っていないだろう。

そんな由里が笹森は愛しかった。

なんにでも一生懸命で勉強で由里に勝ったことなんか一度もない。

由里と同じ大学に行きたくて、一浪して塾に通って必死に勉強したのだ。人生で一番勉強した一年だった。

だから、合格した時は本当にうれしかった。由里も大喜びしてくれた。

裕司はやはりブランクがあったし、働きながら塾にも通わず一人で勉強していたので2年かかった。

でも由里が勉強を見ていたので、それで2年でなんとか合格できたのだと裕司は言っていた。

裕司が入学してきた後の2年間は本当に楽しかった。

どこに行くのも3人一緒で、講義が終わるとバイトに行くのだが、笹森はバイトまで由里と同じところで働いた。

裕司はちょっと引いていたが、由里と少しでも一緒にいられる事が笹森の一番大事なことだったのだ。

アパートも裕司と一緒に大学の近くに借りた。

もちろん由里のアパートの近くだった。由里はよくご飯を作ってくれた。
 
料理が抜群にうまいのだ。裕司と笹森はバイト以外の時は、ほとんど由里のアパートに入り浸っていた。

なのに由里は大学ではいつも首席だった。

いつ勉強しているんだろうと裕司と二人で首をかしげたが、由里は何でもない事のように一番をとり続けたのだ。

そして、卒業式の日、由里は総代としてスピーチした。

それを聞いて二人で嗚咽をこらえながら、涙を流した。

卒業生の多くも涙していた。素晴らしいスピーチだった。

由里は卒業して都内の会社の近くに引っ越して行ってしまったが、それでもニューヨークに行くまでは度々会えたので寂しくはなかった。

そして、裕司と二人で住みながら会社を興すことに熱中していった。

二人とも由里に負けないように何かしたいと、そういう気持ちが大きかったのだ。

裕司と二人で興した会社は順調に大きくなっていった。

そして今、これまでの人生で一番由里の近くにいる。

叶うなら由里を守っていきたい。この先もずっと…そんな自分勝手な想いで、由里の事を裕司にもリアムにも言うつもりはない。

運命が二人に味方すれば二人はきっとお互いを見つけて魅かれあうはずだから、それまでは由里を独り占めしたい。

人生で最大の我儘だと分かっている。

でも笹森は今回だけは、その我儘を押し通すつもりでいるのだ。