そうして今日も中庭のベンチで、一人コーヒーを飲んでほっこりしていると

「みつけた!」

という声が・・・声のほうに視線をやると満面の笑みの笹森がいた。

「笹森君どうしたの?今はお仕事中でしょう?見つけたって探してたの?」

「そうだよ。裕司から聞いて由里が東京に戻っているにもかかわらず、連絡もしてこないし携帯も変えただろ。連絡も付かないってずっと不機嫌でさ。きっと由里はいつかここに来るんじゃないかと思って、時間のある時に朝や昼や午後に来ていたんだよ」

「ええ~っ、そうなのごめん心配かけていたんだね。きっとユウ兄は怒っているだろうとは思ってた。なかなか就活が思うようにいかなくて、この頃腐ってたところ」

そう言って由里はふわっと笑った。

笹森はそんな由里の笑い顔が好きだった。

でもいつもの笑顔には程遠い。どこか哀愁を浴びた瞳の奥が泣いているようだ。

「うちの会社に来なよ。由里なら大歓迎だよ。裕司とも話しているんだ。由里が次の働き先を見つけるまでに、とっつかまえなきゃってね」

「ありがとう。でも笹森君たちの会社には行く気はないよ。せっかくだけどごめん。ちょっと大きなグローバルな会社を目指してるんだ。貿易とかのね」

そう言うと笹森はちょっと不機嫌な声で

「吹けば飛ぶような中小企業で悪かったね」

と言って拗ねた顔になった。

「ごめんごめん。でもね。独りでちゃんと生きていかないとね。ユウ兄や洋子さんにあまえて頼りたくないんだ。わかってよ」

「じゃあ、プライベートでは俺にも少しは支えさせてよ」

「ヘえ?」

「友達としてだよ。裕司にも言ってないんだ。こうして由里を探していたこと…だから裕司に言うなっていうなら何も言わないよ。でも、俺にはちゃんと連絡先教えて、由里は今誰も話をする人がいないだろう?愚痴でもなんでもいいからさ、由里の心の中をさらけ出してよ。俺受け止めるよ。それに由里、ちゃんと泣いた?いつもみたいに我慢して我慢して気持ちに蓋をしてしまっているのだろ?そんなにやつれてしまって、そんなのじゃ面接も通らないよ」

そういって笹森は由美をそっと抱き寄せた。

由里はびっくりしたが人の優しさと温かさに久しぶりに触れて、涙があふれてきた。

もう止めることはできなくて、リアムのそばを離れて初めて声を出して泣いた。

その間笹森は由里の背中をそっと撫で続けてくれた。

20分ぐらいは泣いていただろう。やっと泣き止んだ由里の顔を見て

「ひどい顔」

と言って笹森はくしゃくしゃのハンカチを出して、由里の顔を拭こうとした。

そのくしゃくしゃのハンカチを見て由里はぎょっとした。笹森も

「うん、これはちょっとひどいな」

と言って恥ずかしそうにしたので、由里は可笑しくなって今度は笑いが止まらなくなった。

最後には笹森もつられて二人で大笑いすることになった。

何が可笑しかったのかは、よくわからない。

でも笹森のお陰で泣いて笑って由里の心の澱が溶けていくようだった。

自分にはこんなにも心配してくれる人がいる。

頑張らなくてはと由里を奮い立たせた。