由里は東京に向かう機内でこの後のことを真剣に考えた。

思わず日本に帰る事を決断したが、何をどう考えてもそれしか方法がなかった。

あとは仕事のけじめをどうつけるかだった。

大きなイベントは11月に予定されているリアムの会社の10周年のパーテイだ。

それ以外はまだ話をしている案件が5件ほどあるが、それは何とか断ることができる。

RKOのパーテイもほとんど準備が終わっているので、あとはミッシェルと真理子に理由を説明して仕切ってもらえればいい。

由里もリアムのパートナーとして出席する予定だったが、こうなってはそれも当然かなわない。

ミスターゴバートの言う通りリアムの隣に立つのは、由里よりもリリアの方がふさわしいに決まっている。

ナタリアにさんざん言われた事を今頃実感するなんてほんとに情けない。

でもリアムが結婚して幸せに暮らすニューヨークには由里は居られないし、リリアも由里が目と鼻の先にいるのは気分がよくないだろう。

ペントハウスはまた改装するのだろうなあと、余計なことまで考えて落ち込む由里だった。

まだテラスの工事も済んでいない。

一応デザインは済んでいるので後はリアムの判断に任せるしかなかった。

そんなこまごまとしたことやお願いを、リアムではなくケンにあてて手紙を書いた。

メールにすると返信が届くのが耐えられなかった。

リアムの近況など聞いても仕方がないと思っている。

一方的な手紙で申し訳ないが、誠実なケンを頼りに由里は長い長い手紙を書いた。

ミッシェルと真理子には新しい携帯から何度か電話を掛けた。

でも、番号は分からないようにした。

二人がリアムの話を振ろうとすると話を変えた。

二人ともリアムとリリアのキスシーンが、ゴシップ新聞の一面に載ったので大体のことは察しているようで、リアムへの風当たりが強い。

二人が次の働き口が見つかって落ち着いたのを見計らって、携帯もまた変えるつもりだ。

そんな風に細心の注意を払いながら、頑張って手に入れた自慢の仕事と、始めて愛した人との幸せな生活を手放して、リアムの前からそしてニューヨークから由里は消えていった。