どうしたのかと思って顔をのぞかせると、ナースセンターでナタリアが由里に面会を求めて騒いでいた。

由里はうんざりしてドアを閉めようとした所ナタリアに気づかれてしまった。

ナタリアは看護師の制止を振り切り病室の前まで走ってきて由里に

「示談にするって言って何よ。すごい高額な金額を要求して、だから貧乏人は下品なのよ。そんなに大した怪我でもないのにいつまで入院してるのよ。」

由里はまた突き飛ばされるのかと思うと体が震えて言葉が出なかった。

その時

「何をしてる」

と愛しい人の声がした。

でもかなり怒っている。

こんなに怖い声聞いたことがない。

リアムはナタリアをどけて由里に寄り添うとそっと肩を抱いてくれた。

「かわいそうに震えているじゃないか君に面会を許可した覚えはない。帰ってくれ」

とリアム

「あらリアムもうお遊びは飽きたでしょう?いい加減にしたほうがいいわよ。こんな地味で冴えない女。ちょっと毛色の変わったところに興味を惹かれただけでしょう?」

と言ってリアムに手を伸ばした。リアムはその手を払って

「由里がせっかく示談で済まそうとしてくれているのに、きみは訴えられたいらしいね。そうならすぐに弁護士に連絡してその準備を
してもらう。示談はなしということだな?」

「待って違うわよ。示談の金額が納得いかないから…」

とかなんとかぶつぶつ言い始めたナタリアだが、看護師が呼んだのだろう警備員に引きずられていった。

「ごめんよ由里。怖かっただろう。ほんとにあんな女と3ケ月でも付き合っていたなんて自分が情けないよ」

と言って由里に寄り添ってベッドまで運んでくれた。

まだ、背中の傷と脇腹の打撲や体中の打ち身が痛いのだが、そっと抱きしめられるのは大丈夫だと知らせたくて由里は自分からリアムの背中に手を回して抱き着いた。

リアムは由里の顎をもって上を向かせ唇を寄せた。

二人でキスに夢中になっているととんとんとノックの音、急いで離れて”はい”と返事をするとナース長が入ってきて、先ほどのナタリアの侵入を許したことを謝罪してきた。

もう大丈夫だと言って引き取ってもらい二人でこれからの予定を確認した。

明日のご前中に退院の手続きをしてそのままロングアイランドの家に行くという。

ケンから1週間の休暇をもぎ取ったらしい。

由里は一人でも大丈夫と言ったがリアムは

「僕が大丈夫じゃない」

と言って由里を困らせた。

8針縫ったところの抜糸が済んで松葉杖を使うこともできるようになった。

退院したら事務所に行こうと思っていたのだ。

リアムのペントハウスからなら地下鉄に乗らなくてもタクシーですぐなので、暫くペントハウスに泊まらせてもらうつもりだった。

ペントハウスにいればナタリアのことを嫌でも思い出してしまうので、本当の所は近くのホテルにでも泊まるのが由里にとってはベストなのだが、リアムは承知しないだろうと思っていたので、ペントハウスで妥協しようと思っていたのだ。

1週間休みを取ってくれてロングアイランドまで行くように手配をしてくれたリアムの気持ちを考えると、それ以上我儘は言い出せなかった。