そんな気分の下がることが続いたので、3人で真理子の歓迎会も兼ねて食事をしに行くことにした。

真理子のご主人はアフリカ系アメリカ人で、ホテルのイタリアンレストランでシェフの見習いとして働いている。

二人の夢は小さくてもいいピザやパスタの美味しいお店を持つことらしい。

由里より2歳年下の真理子は明るくてよく気使いのできる女性で、土日もしっかり出てくれるので助かっている。

真理子の休日はご主人に合わせて休めるようにしてあげているので、とても喜んで働いてくれている。

ミッシェルとも仲良くずいぶん年下だけれど仕事に関しては先輩なので、その辺もきちんとわきまえて接してくれている。

由里は人には恵まれているとつくづく思う。

ナタリアの嫌がらせぐらいで落ち込んでいてはいけないと反省した。

食事は真理子のご主人が働いているイタリアンレストランに行って、真理子の旦那様にも挨拶できた。

そしてその後ホテルの最上階のバーに女3人で乗り込んだ。

たまにはお酒を飲んで憂さを晴らそうと意気揚々と行ったのだが、まずいことにナタリアが友人たちと来ていたのだ。

かなりお酒も入っているらしく入ったとたん由里に気づいた彼女は、千鳥足で寄ってきて

「何よ、こんなところに厚かましくも顔を出すなんてとんだジャップね!」

と大きな声で叫んだ。

客の中には日本人もいてみんな眉をひそめている。

ナタリアは持っていたグラスに入ったお酒を由里の顔めがけてぶっかけた。

ホテルのウエイターがナタリアを止めようとしたが、酔った彼女の癇癪は止まらず由里の胸元をつかんでブラウスを破いた。

そして思いっきり突き飛ばした。

由里は近くのテーブルに激突して倒れ床で頭を打って意識をなくした。

割れたガラスが腕に刺さり酷い出血になり周りの人たちは、息を飲んで固まっていたらしい。

それはホントにあっという間の出来事で、由里たちが入店して5分もたっていないうちに起こった。

ミッシェルも真理子もあっけにとられて、由里が倒れて初めて体を動かせたという状態だった。

すぐに救急車を呼ぼうということになったが、ニューヨークの救急車はなかなか来ない。

特に金曜日の夜のマンハッタンはそこら中で渋滞している。

みんなが戸惑っていたが、客に医者がいて彼が自身の勤める病院に連絡して運んでくれたらしい。

由里は後で知ったのでその状況は何もわからず気が付くと、見覚えのない白い天井に腕には点滴がされていてミッシェルと真理子が、ベッドの横に心配そうに座っていた。

気が付いた由美を見て二人とも飛び上がって、ナースコールで看護師を呼んでくれた。

時間にして4時間ほど意識を失っていたらしい。

頭も腕も体中ずきずきする。

もう真夜中は過ぎていた。

腕は8針縫ったらしく打撲や背中にもガラスにより小さな傷があった。