「依頼されたんです、ヤクザみたいな人に」
「……え?」
 急に大きな話になって困惑する。
「ヤクザって、ヤクザ? 知り合いなの?」
「違います。俺、路上で絵描きしてて、そこで声かけられて。たぶん俺、こんなヒョロガリだから、脅せばなんでも言うことを聞くとでも思われたんだと思います」
 私はこめかみを押さえた。
 意味がわからない。
 ヤクザに声をかけられて、多少脅されたからって、犯罪をおかすか、普通。
 しかも何? なぜヤクザは私の家に入るよう依頼したわけ?
 困っている私に、大貫が申し訳なさそうに言う。
「お姉さん、たぶん狙われてますよ。ここに侵入して適当に何か盗んで来いって言われて、鍵も渡されました」
「はあ?」
 大貫はおもむろにポケットから鍵を取り出した。我が家の合鍵らしい。
「なんでそんなもんがあるのよ! てか、なんでまだ持ってるのよ!」
 警察官のひとりが、声を荒らげる私をなだめる。
 もうひとりの警察官は慌てて大貫から鍵を奪った。
 なんなの、もう。最初から回収しておいてよ!
 ふたりの警察官を交互に睨みつける私に、警察官は肩をすくめる。
「勝手に合鍵を作る犯罪もあるんですよ」
「はあ?」
 だから良いってわけでもないだろう。頭に血が登ってくる。
 警察官は続けた。
「強盗、強姦、合鍵はいろいろな犯罪に使われます。彼の言う通り、浅野さんは何かのターゲットにされていたんでしょう」
「ターゲットって」
 ヤクザに狙われる覚えはない。
 口をへの字にする私に、大貫が言った。
「お姉さん美人で目を惹くから、たぶん、目を付けられたんだと思います」
 美人。
 目を惹く。
 あら、そう。
 この男、口は上手いらしい。
 褒めたって許すわけじゃないのに、と思いながら私は彼から顔をそらした。