私はタオルを握り締め、血濡れのTシャツの上から男の脇腹にタオルを押し付けた。甘い、香水みたいな匂いがする。
「っつ」
男がうめくような声を上げる。でも気にしない。
「痛くても我慢して」
手にグッと力を込めたら、男がさらに悲鳴に近い声をもらした。
「っぐ、やめろ。はぁ、もう、いい」
「良いわけないでしょ、馬鹿じゃないの死ぬよ?」
こんなところで死なれたら困る。というか、このままでは死ぬかもしれない。
「そうだ救急車」
私は男の脇腹を押さえたまま辺りを見渡した。スマホ、どこよ。
「いいって」
男が声を振り絞る。
「救急車、いらない。もう、血、止まってるから」
「……はあ?」
いやいや、なに言ってんの。さっきポタッと落ちたじゃん。
そう思ったけれど、たしかに手に触れたTシャツは乾いた血でパリパリしている。出血してからかなり時間が経っているようにも感じる。
「むしろ、傷、ひらく。押すな」
「え、あ、ごめん」
私は恐る恐る手を離した。押さえていたタオルにも、たいして血がついていない。
「えっと、どういうこと?」
頭が上手く回らない。空き巣が血まみれ。だけどあまり出血していない。え? なにこれ。
廊下の灯りで照らされただけの静かなワンルーム。
入り口付近で座り込む不審者と私。
不審者はよく見ればホストのように端正な顔立ちをしていた。上下左右バランスの取れた顔。細身でスタイルの良い肉体。
それには不釣り合いな、どす黒い血。
「刺された、の?」
恐る恐る聞く私の問いに、男の頭がこくんと動く。
もしかして、痴情のもつれ、というやつだろうか。刺されて、逃げて、行く当てもなく空き巣に?
だとしたら、この男も被害者ではないのか。
「あなた、空き巣、よね?」
私は男の顔を覗き込みながら聞いた。
男は青白い顔で必死に呼吸しながら、焦点の定まらない目で私を見た。震える唇が動く。
「悪い。仕方なくて。ごめん、もう、何もしないから」
男のまぶたが重力に逆らえず閉じていく。そのまま頭、肩と順番に床へ崩れ落ちた。男は地に身体を預け、弱々しく声を出す。
「警察、来たら、起こして」
そのまま男は眠りについた。
「ちょ、え? ちょっと待った! これ寝たら死ぬやつ! ちょっと! 聞いてる? おい起きろ! 寝るな馬鹿!」
冗談じゃない。私は慌てて救急車を要請した。
「っつ」
男がうめくような声を上げる。でも気にしない。
「痛くても我慢して」
手にグッと力を込めたら、男がさらに悲鳴に近い声をもらした。
「っぐ、やめろ。はぁ、もう、いい」
「良いわけないでしょ、馬鹿じゃないの死ぬよ?」
こんなところで死なれたら困る。というか、このままでは死ぬかもしれない。
「そうだ救急車」
私は男の脇腹を押さえたまま辺りを見渡した。スマホ、どこよ。
「いいって」
男が声を振り絞る。
「救急車、いらない。もう、血、止まってるから」
「……はあ?」
いやいや、なに言ってんの。さっきポタッと落ちたじゃん。
そう思ったけれど、たしかに手に触れたTシャツは乾いた血でパリパリしている。出血してからかなり時間が経っているようにも感じる。
「むしろ、傷、ひらく。押すな」
「え、あ、ごめん」
私は恐る恐る手を離した。押さえていたタオルにも、たいして血がついていない。
「えっと、どういうこと?」
頭が上手く回らない。空き巣が血まみれ。だけどあまり出血していない。え? なにこれ。
廊下の灯りで照らされただけの静かなワンルーム。
入り口付近で座り込む不審者と私。
不審者はよく見ればホストのように端正な顔立ちをしていた。上下左右バランスの取れた顔。細身でスタイルの良い肉体。
それには不釣り合いな、どす黒い血。
「刺された、の?」
恐る恐る聞く私の問いに、男の頭がこくんと動く。
もしかして、痴情のもつれ、というやつだろうか。刺されて、逃げて、行く当てもなく空き巣に?
だとしたら、この男も被害者ではないのか。
「あなた、空き巣、よね?」
私は男の顔を覗き込みながら聞いた。
男は青白い顔で必死に呼吸しながら、焦点の定まらない目で私を見た。震える唇が動く。
「悪い。仕方なくて。ごめん、もう、何もしないから」
男のまぶたが重力に逆らえず閉じていく。そのまま頭、肩と順番に床へ崩れ落ちた。男は地に身体を預け、弱々しく声を出す。
「警察、来たら、起こして」
そのまま男は眠りについた。
「ちょ、え? ちょっと待った! これ寝たら死ぬやつ! ちょっと! 聞いてる? おい起きろ! 寝るな馬鹿!」
冗談じゃない。私は慌てて救急車を要請した。


