開いたドアのすき間から、廊下の電気が差し込む。少しずつ照らされていく私の部屋。
ベッド、カーペット、丸テーブル。
そして人間の足――。
「ひっ」
私は声にならない声を上げた。
足の生えた影が、わあっと襲い掛かってくる。大きな黒い塊が私の視界を埋め尽くして、私は思わず目をぎゅっと閉じた。いや、駄目! 視界を失くしたら危険! 殺される!
逃げなきゃ! と目を開いた。目の前で、Tシャツ姿の男がキラリと光る刃物をこちらへ突き付けている。
「――っ!」
馬鹿だ。逃げられるわけがない。
心臓がドクンと跳ねる。助けて、の声はのどの奥でつぶれた。足がガタガタ震えて一歩も動かせない。刃は私の目の前数十センチ。切っ先がこっちを向いているのに、私の身体は石みたいに硬い。
Tシャツ姿の男は私の首筋に刃物を当てた。
「金、どこ」
カネ。金目当てか。
それは認識できたのに、あれ、どこだっけ、なんて馬鹿なことしか浮かばない。
背負った鞄の中に財布が入っているのに、それを差し出せば助かるかもしれないのに、刃物を突き付けられた私の脳内は完全に真っ白だ。
「早く!」
男は舌打ちし、刺すような声で言った。私も肩を震わせる。
チッ、チッ。舌打ちが何回も聞こえる。チッ、チッ。チッ。……多すぎない?
なんか、変だ。
この男、右手で刃物を持ちながら体を妙にくねらせ、左手で右の脇腹を押さえている。ハァ、ハァと荒れる呼吸。舌打ちじゃない。呼吸が乱れているのだ。
廊下から差し込む光に照らされた男の左手は、どす黒い赤で染まっていた。
脇腹から、ぽたり、と雫が垂れる。
ベッド、カーペット、丸テーブル。
そして人間の足――。
「ひっ」
私は声にならない声を上げた。
足の生えた影が、わあっと襲い掛かってくる。大きな黒い塊が私の視界を埋め尽くして、私は思わず目をぎゅっと閉じた。いや、駄目! 視界を失くしたら危険! 殺される!
逃げなきゃ! と目を開いた。目の前で、Tシャツ姿の男がキラリと光る刃物をこちらへ突き付けている。
「――っ!」
馬鹿だ。逃げられるわけがない。
心臓がドクンと跳ねる。助けて、の声はのどの奥でつぶれた。足がガタガタ震えて一歩も動かせない。刃は私の目の前数十センチ。切っ先がこっちを向いているのに、私の身体は石みたいに硬い。
Tシャツ姿の男は私の首筋に刃物を当てた。
「金、どこ」
カネ。金目当てか。
それは認識できたのに、あれ、どこだっけ、なんて馬鹿なことしか浮かばない。
背負った鞄の中に財布が入っているのに、それを差し出せば助かるかもしれないのに、刃物を突き付けられた私の脳内は完全に真っ白だ。
「早く!」
男は舌打ちし、刺すような声で言った。私も肩を震わせる。
チッ、チッ。舌打ちが何回も聞こえる。チッ、チッ。チッ。……多すぎない?
なんか、変だ。
この男、右手で刃物を持ちながら体を妙にくねらせ、左手で右の脇腹を押さえている。ハァ、ハァと荒れる呼吸。舌打ちじゃない。呼吸が乱れているのだ。
廊下から差し込む光に照らされた男の左手は、どす黒い赤で染まっていた。
脇腹から、ぽたり、と雫が垂れる。


