玄関を開けたら、血まみれの男がいました

 翌朝。
 私は大貫と共に通所介護施設「ひまわり」へ出勤した。大貫を連れていくことは施設長へLINEしてある。
 大貫はスウェット姿できょろきょろしながら私のあとをついてきた。昨夜は公園のベンチで寝たらしい。スネがかゆいと言って、赤く腫れた脚を見せられた。よくわからない虫に刺されたらしい。そうか、と思いつつ、なんとなく罪悪感が湧く。そんなもの、不必要だ。だって大貫が公園で寝泊まりしたのは、自業自得なのだから。私のせいではない、けれど、微妙に心が痛い。それもまた腹が立つ。
 気持ちのやりどころがわからないまま、私たちは介護施設にたどり着いた。
「あの、俺は一体どうすれば……?」
 施設内で朝の支度をバタバタと整えていると、手持ち無沙汰の大貫が尋ねてきた。そういえば、勝手に連れてきておいて、なんの説明もしていなかった。
「ああ、ごめん。あのさ、塗り絵作ってくれない?」
「塗り絵?」
「そう。利用者さんたちがよく塗り絵するのよ。大貫くんの幾何学的な絵、なんか色塗りやすそうじゃない。そこにコピー用紙があるから、ペンで線画を描いてくれる?」
 大貫の目に光が差す。
「何枚必要?」
「そうね、多ければ多い方がいい。毎日使うし。頼んでいい? 給料は出ないけど、弁当ぐらいはおごるから」
「わかった」
 大貫は私を見て、口角をあげた。
 優しくカーブを描く目じり。
 柔らかく吊り上がる口元。
 それは甘くとろけるような笑みだった。ぶわっと風が吹いたような衝撃を受ける。自信に裏付けされた魅力的な笑み。
 私は急に高鳴る自分の心臓に驚いて、大貫から目をそらした。おい私、なにをときめいているのだ。