「で? そのヤクザって捕まりそうなの?」
「どうだろう。警察次第かな。俺のスマホも返ってこないし、はやく捕まってほしいけど」
 そう言って、無音が広がった。
 空気が重い。私はコーヒーのペットボトルに目を向けた。一応、気は遣えるんだよなあ、彼。結構、優しい。恨むには馬鹿すぎる。
 私の心はほんのり大貫に歩み寄っている。
「ねえ。大貫くんはどんな絵を描いてるの?」
 問いかけた瞬間、大貫の顔にパッと赤みが差した。クリクリな目を輝かせた大貫は、「見る?」と弾むような声を上げる。パタパタと尻尾を振る幻まで見えた。
「あー……、み、見る」
 私の答えに、大貫がスッと私の手を掴む。
「来て!」
 ナチュラルに手を繋がれて驚く。距離感、おかしいだろ。というツッコミもできぬまま、私はリビングの奥の部屋へ通された。
「って、え、わあ」
 部屋に入って驚いた。
 部屋の中は壁一面に沢山の絵が貼られている。
 原色バキバキのド派手なカラーリングで、抽象的に風景や人物が描かれている。なかには幾何学模様だけの絵もあった。凡人にはわかりにくい、芸術的? な、絵だ。