もたもたしていると、大貫は申し訳なさそうに口を開いた。
「まさか空き巣だとは思わなかった。もっと楽な交換条件だと思った。でも、なんも考えずついてったら、廃ビルに連れていかれて。いきなり腹を刺されて」
「はあ? なにそれ」
急展開すぎる。
つまらないドラマレベルの急展開だ。けれどあの血まみれを見ているから、信じざるを得ない。
大貫が顔を伏せる。
「まあ、見せしめだと思うんだけど。刺せば言うこと聞くだろう、みたいな」
「ああ、なるほど」
大貫は気が弱そうだし、ヒョロヒョロのホストみたいだし、たしかに脅せば言うことを聞きそうだ。それにしたって急に刺すとは、ヤクザの考えることは常人には理解できない。
私がため息をつくと、大貫はボソボソと続けた。
「で、それからスマホ盗られて。『このまま死ぬか、泥棒するか選べ』って言われて」
大貫の目に悲壮感が漂う。
「助けてくださいって言ったら、浅野さんちの合鍵渡されて『ここから金目のもの盗ってこい』って。自分の手は汚したくないからって。何か持っていけば治療費も払ってくれるって言うから、つい」
大貫はチラッと私を見た。居心地が悪そうに、すぐ目をそらす。
「でもまさか帰ってくるとは思わなくて。鉢合わせて、怖がらせて、すみません」
大貫が頭を下げる。
かわりに、私は頭を抱えた。
「状況はだいたいわかった。うーん、あなたはただ、助かりたかっただけってことよね。はあ」
特大のため息がもれる。大貫の雰囲気的に、きっと嘘はついていないのだろう。
ただ。
「馬鹿すぎる」
私はガックリうな垂れた。
「なんでそこで馬鹿正直に空き巣なんてするわけ? 警察に行けば良かったじゃん」
「でも、スマホ盗られてたし」
「だから何? 電話じゃなくたって、歩いて交番へ行くなり、そこらへんの人に助けを求めるなり、なんだってできたでしょう。なんで空き巣に入る度胸があるくせに、そんなこともできないのよ」
私の指摘に大貫は「おお」と驚いた顔をする。やっぱり馬鹿だ。
「でもわかった。大貫くんも被害者なんだね」
大貫はコクンとうなずく。
黒髪がサラサラとなびいた。悲しそうな瞳。でかい図体のくせに子犬みたいで、ちょっと哀れだ。
しんみりとした空気が室内を漂う。ふよふよ、ふよふよ。
彼の丸まった背中を見ていたら、彼の境遇に同情して、助けてあげたくなる。加害者に対してそんなことを思ってしまう私も、大概だ。
「まさか空き巣だとは思わなかった。もっと楽な交換条件だと思った。でも、なんも考えずついてったら、廃ビルに連れていかれて。いきなり腹を刺されて」
「はあ? なにそれ」
急展開すぎる。
つまらないドラマレベルの急展開だ。けれどあの血まみれを見ているから、信じざるを得ない。
大貫が顔を伏せる。
「まあ、見せしめだと思うんだけど。刺せば言うこと聞くだろう、みたいな」
「ああ、なるほど」
大貫は気が弱そうだし、ヒョロヒョロのホストみたいだし、たしかに脅せば言うことを聞きそうだ。それにしたって急に刺すとは、ヤクザの考えることは常人には理解できない。
私がため息をつくと、大貫はボソボソと続けた。
「で、それからスマホ盗られて。『このまま死ぬか、泥棒するか選べ』って言われて」
大貫の目に悲壮感が漂う。
「助けてくださいって言ったら、浅野さんちの合鍵渡されて『ここから金目のもの盗ってこい』って。自分の手は汚したくないからって。何か持っていけば治療費も払ってくれるって言うから、つい」
大貫はチラッと私を見た。居心地が悪そうに、すぐ目をそらす。
「でもまさか帰ってくるとは思わなくて。鉢合わせて、怖がらせて、すみません」
大貫が頭を下げる。
かわりに、私は頭を抱えた。
「状況はだいたいわかった。うーん、あなたはただ、助かりたかっただけってことよね。はあ」
特大のため息がもれる。大貫の雰囲気的に、きっと嘘はついていないのだろう。
ただ。
「馬鹿すぎる」
私はガックリうな垂れた。
「なんでそこで馬鹿正直に空き巣なんてするわけ? 警察に行けば良かったじゃん」
「でも、スマホ盗られてたし」
「だから何? 電話じゃなくたって、歩いて交番へ行くなり、そこらへんの人に助けを求めるなり、なんだってできたでしょう。なんで空き巣に入る度胸があるくせに、そんなこともできないのよ」
私の指摘に大貫は「おお」と驚いた顔をする。やっぱり馬鹿だ。
「でもわかった。大貫くんも被害者なんだね」
大貫はコクンとうなずく。
黒髪がサラサラとなびいた。悲しそうな瞳。でかい図体のくせに子犬みたいで、ちょっと哀れだ。
しんみりとした空気が室内を漂う。ふよふよ、ふよふよ。
彼の丸まった背中を見ていたら、彼の境遇に同情して、助けてあげたくなる。加害者に対してそんなことを思ってしまう私も、大概だ。


