私はキッチンに目を向けた。調理器具や食器が見当たらない。かといって、弁当とかペットボトルのゴミが散らかっているわけでもない。生活感がまるで無い。
この男のことがますますわからなくなる。
私の怪訝な顔に気付き、大貫は小さくため息をついて顔を背けながら言った。
「生活してますよ、ここで。この家は両親の遺産として相続したんです。俺自身はニート。路上で絵を売って生活してます。っつっても生活するほど稼げてねえけど」
大貫は綺麗な横顔を見せつけるように、私と目を合わさない。コーヒーを飲む横顔は、頬骨のラインが美しかった。
でも、なるほど。合点がいった。
大貫のふざけたカラフルジーンズは、貧乏絵描きの正装だったわけだ。
「それで? お金がないから空き巣の依頼を受けたわけ?」
「ちがう、ちがう」
私の問いに大貫は一瞬私を見て、首を横に振る。
「個展を開かないかって言われて。開いてやる代わりに、手伝ってほしいことがあるって言うから、引き受けた」
「ヤクザが個展?」
バッカじゃないの、と言いかけて口をつぐむ。胡散臭いと思わなかったのか。なぜヤクザをすぐに信じられるのか。
純粋そうな大貫は天使みたいな顔をして、コーヒーをちびりと飲んで言う。
「公園でいつも通り絵を売ってたら、ヤクザっぽい男が『おう兄ちゃん、良い絵だな。個展でも開かねえか』って。そんな金無いって言ったら、金は出してやるから代わりに頼みを聞いてくれって。それでまあ、ラッキーだなって」
「最低」
なにがラッキーだ。このポンコツイケメンクソ野郎。頭からコーヒーをぶっかけてやろうか。
しかし綺麗な顔を伏せてショボンとしている大貫は、ビジュが良すぎて怒りづらい。
この男のことがますますわからなくなる。
私の怪訝な顔に気付き、大貫は小さくため息をついて顔を背けながら言った。
「生活してますよ、ここで。この家は両親の遺産として相続したんです。俺自身はニート。路上で絵を売って生活してます。っつっても生活するほど稼げてねえけど」
大貫は綺麗な横顔を見せつけるように、私と目を合わさない。コーヒーを飲む横顔は、頬骨のラインが美しかった。
でも、なるほど。合点がいった。
大貫のふざけたカラフルジーンズは、貧乏絵描きの正装だったわけだ。
「それで? お金がないから空き巣の依頼を受けたわけ?」
「ちがう、ちがう」
私の問いに大貫は一瞬私を見て、首を横に振る。
「個展を開かないかって言われて。開いてやる代わりに、手伝ってほしいことがあるって言うから、引き受けた」
「ヤクザが個展?」
バッカじゃないの、と言いかけて口をつぐむ。胡散臭いと思わなかったのか。なぜヤクザをすぐに信じられるのか。
純粋そうな大貫は天使みたいな顔をして、コーヒーをちびりと飲んで言う。
「公園でいつも通り絵を売ってたら、ヤクザっぽい男が『おう兄ちゃん、良い絵だな。個展でも開かねえか』って。そんな金無いって言ったら、金は出してやるから代わりに頼みを聞いてくれって。それでまあ、ラッキーだなって」
「最低」
なにがラッキーだ。このポンコツイケメンクソ野郎。頭からコーヒーをぶっかけてやろうか。
しかし綺麗な顔を伏せてショボンとしている大貫は、ビジュが良すぎて怒りづらい。


