あなたと私を繋ぐ5分

 株主総会が終わった。総務部に所属して数年経つが、当日の緊張感から解放されることはない。
 けれどその分、達成感はあった。

 後処理が残っているとはいえ、直前のような忙しい日々からは解き放たれ、美咲は早出も残業もせずに、定時で出退勤ができるようになった。

 もちろん、コーヒーをゆっくり淹れられる程度に早めには出社しているけれど、鷺沼はとっくに出勤してきたあとだろう。おかげで給湯室で会うことも、なんなら廊下ですれ違う頻度も格段に減っていた。

 このまま距離が元に戻れば、芽生えかけた思いは忘れることができる。そう安心していたときだった。


 ようやく昼休みに外出するゆとりができて、美咲はひとり会社近くの蕎麦屋に向かっていた。
 大通りから一本外れたところにあるこの店は、オフィスの多いこの地域でも穴場らしく、比較的空いているのだ。蕎麦屋ということもあり、回転が早いせいもあるかもしれない。
 少し肌寒くなってきた時分、美咲はこの店でとろろそばを食べるのを週に一度の楽しみにしていた。

 明るい店内は、中央に大きな円卓があり、一人の客はそこへ案内される。
 注文を済ませ、店内をぼんやりと眺めていると、思わず目を疑った。

 まさか、と思った。鷺沼がひとりでやってきたのだ。
 鷺沼も美咲を認めると、一瞬大きく目を見開いて、隣へとやってきた。

「ここ、いい?」

 混んでいる店内には、美咲の隣と、他にもう一席しか空いていなかった。断れるわけもない。
 おずおずと頷くと、鷺沼はふっと表情を緩めた。

「総会終わって、落ち着いた?」

 店員から渡されたおしぼりで手を拭きながらそう訊ねられて、無言で頷く。
 会う頻度が減ったとはいえ、別に避けているわけではない。後ろめたい思いをする必要はないのだ、と思いながらもどうにも身構えてしまった。
 しかし鷺沼は、美咲の態度にはなんの疑いも抱いていないようだった。