あなたと私を繋ぐ5分

「うーん、でも全然減らないなあって思ってたんですよね……。やっぱり他の部署の方々に、ちゃんとお知らせが行き渡っていない気がしてきました」
「まああと淹れるのが面倒って人間も多いかもしれない。カップも洗わないといけないし、置いておく場所もないし」

 確かに、給湯室はあるものの、私物のカップやタンブラーは自分のデスクで管理することになっていて、給湯室には専用の置き場はない。
 洗いカゴすらないので、乾くまで伏せておくこともできないのだった。
 おかげで美咲は、毎回キッチンペーパーで洗ったタンブラーを拭いて、デスクで保管していた。
 早く帰りたいときなんか、拭くのが面倒だなあとそのまま持って帰ってしまうこともある。確かに、手間だと思う社員が多いのも頷けた。

 客人用のカップ一式は用意されているけれど、最近ではペットボトルのお茶や、自販機で買えるカップのコーヒーを出すことが増えていて、給湯室を使う社員も少なくなっている。
 このままではいつか給湯ポットも廃止になってしまうかもしれない。それは困る。

「鷺沼課長にも一緒にコーヒー淹れましょうか……って思いましたけど、カップがないんですもんね」
「あー……、これに淹れてもらうことって、できる?」

 少し言い淀んでから、鷺沼が見せてきたのは某コーヒーショップの紙コップだった。

「出勤途中に買ったんだけど、もう飲み切ったから」
「いいですよ」

 そう言って、カップを受け取ろうと手を差し出すと、鷺沼は美咲の隣に立ち、蓋を外してカップの中を軽くすすいだ。

「助かる」
「預かりますね」

 カップを受け取り、同じようにドリップバッグをセットする。二人分のコーヒーに、順番にポットから少しずつお湯を注ぐ。

「毎朝、コーヒー買って出社されてるんですか?」
「午前中に外出がないときは、ほぼ買ってくるかな、まあ外出する日も、もっと早く飲み終わっちゃうけど。そのあとはだいたい缶コーヒー」
「この前も飲んでらっしゃいましたもんね」
「うん。藤宮さんは、いつもここで淹れてるんだな」
「そうですね。節約になりますし」

 鷺沼は給料も美咲よりだいぶ高いはずで、節約なんてする必要ないのかもしれないな、と美咲は内心苦笑いを浮かべた。

「俺もタンブラー買おうか迷っているんだ。ドリップは面倒でも、インスタントの粉さえ置いておけばいいわけだし。缶コーヒーだと味気なくて。」
「確かに。それにタンブラーがあれば、結構熱いまま保ちますよ」
「なるほど」
「鷺沼課長はお忙しいですから、洗うことさえ忘れなければ……」
「はは。そこが一番不安だな」

 そう言って笑う鷺沼に、「熱いので気をつけてください」と言いながら紙コップを手渡した。

「ありがとう。今日も一日頑張れそうだ」
 さらりとそう言われ、美咲はとっさに鷺沼を見ないように自らのタンブラーの蓋をはめてやり過ごした。