家に帰り、ノートを開くと同時に、口元に笑みが浮かんだ。
自分は酷い顔をしているだろうと自覚しているのに、抑えきれない。
話しやすい、と言われたことを真っ先に書き残した。
もし本当に自分がそんな雰囲気を醸し出せているのだとしたら、「不満しか言わない」ような私とは、もうさようなら出来たと言えるのかもしれない。どうかそうであって欲しい。
気づけば二十二時になっており、慌ててポッドキャストをつけた。
穏やかな波の音が流れ始める。
『みなさんこんばんは、潮騒です。本日もお聞きいただき、ありがとうございます』
波間に揺蕩うような心地よい声が流れてきて、美咲はペンを置いた。
『今日も短い時間ですが、あなたのお耳をお貸しください。それでは今日の小さな幸せのかけら、です。私の住む地域では、今日は雨がだいぶ小降りになりました。秋晴れに出会えるまであともう少し、といったところでしょうか。同じ雨でも、雨粒が小さいと濡れずにすみますね。最近は雨の強い日が続いていましたから、晴れが近づいているようで幸せを感じます』
その後電車内での老夫婦のやりとりや、水たまりで珍しく蛙を見かけて童心に返った話などが続く。
蛙を見かけたら、自分だったら幸せだと思えないかもしれないな、と美咲が苦笑いしていると、
『あまり人と話すのが得意ではないのですが、珍しくすらすらと自分の思っていることを伝えられた日でした。このポッドキャストを始めた影響だったら良いのですが。ただ実際はそうではなく、相手の方が聞き上手だったのだと思います。でも聞き上手な方と出会えた、というのは、大きな幸せのかけら、ですね』
そう話す声がいつも以上に柔らかく、美咲はふっと顔が綻ぶのを感じた。潮騒さんでも、そう思うのだ。相手に話せてよかった、と思ってもらえることは、やっぱり良いことに違いない。
自分は潮騒さんとは違って、相手に何かを伝えたいと思うタイプではないけれど、話したい人が話しやすい空気をまとった人間ではありたいな、と改めて思ったのだった。
自分は酷い顔をしているだろうと自覚しているのに、抑えきれない。
話しやすい、と言われたことを真っ先に書き残した。
もし本当に自分がそんな雰囲気を醸し出せているのだとしたら、「不満しか言わない」ような私とは、もうさようなら出来たと言えるのかもしれない。どうかそうであって欲しい。
気づけば二十二時になっており、慌ててポッドキャストをつけた。
穏やかな波の音が流れ始める。
『みなさんこんばんは、潮騒です。本日もお聞きいただき、ありがとうございます』
波間に揺蕩うような心地よい声が流れてきて、美咲はペンを置いた。
『今日も短い時間ですが、あなたのお耳をお貸しください。それでは今日の小さな幸せのかけら、です。私の住む地域では、今日は雨がだいぶ小降りになりました。秋晴れに出会えるまであともう少し、といったところでしょうか。同じ雨でも、雨粒が小さいと濡れずにすみますね。最近は雨の強い日が続いていましたから、晴れが近づいているようで幸せを感じます』
その後電車内での老夫婦のやりとりや、水たまりで珍しく蛙を見かけて童心に返った話などが続く。
蛙を見かけたら、自分だったら幸せだと思えないかもしれないな、と美咲が苦笑いしていると、
『あまり人と話すのが得意ではないのですが、珍しくすらすらと自分の思っていることを伝えられた日でした。このポッドキャストを始めた影響だったら良いのですが。ただ実際はそうではなく、相手の方が聞き上手だったのだと思います。でも聞き上手な方と出会えた、というのは、大きな幸せのかけら、ですね』
そう話す声がいつも以上に柔らかく、美咲はふっと顔が綻ぶのを感じた。潮騒さんでも、そう思うのだ。相手に話せてよかった、と思ってもらえることは、やっぱり良いことに違いない。
自分は潮騒さんとは違って、相手に何かを伝えたいと思うタイプではないけれど、話したい人が話しやすい空気をまとった人間ではありたいな、と改めて思ったのだった。


