あなたと私を繋ぐ5分

「藤宮さん、もう少しやっていく?もしそうなら、飲み物選んで?」
「え?」

 さりげなく名前を呼ばれたことに驚いていると、鷺沼は「いつもコーヒー飲んでるけど……缶コーヒーじゃ微妙だよな?」と続ける。

「あ、そんな」
「こんなことでお礼になるとは思ってないんだけど。でもお金入れちゃったから早く選んでほしい」
「あ、は、はい……」

 急かされて慌てて自販機に向き直る。ホットのミルクティーのボタンを押した。

「コーヒー派ってわけでもないのか」
「あ、はい。糖分が欲しいなっていうときは、ミルクティにしていて。その、甘いので」
「はは。確かに甘そうだ」
「すみません、ありがとうございます。ごちそうしていただいて」

 続けてホットコーヒーを買う鷺沼に、改めて頭をさげる。

「いやお礼を言うのはこっちだから、傘、ありがとう」

 目の前に差し出された傘を受け取る。

「いえ、大したことじゃ……」

 そう言って首を振る美咲に、鷺沼はふっと息を漏らした。

「冷酷な人間だと思われている俺に、傘を貸してくれるなんて、藤宮さんは優しい人だと思うよ」
「そんな……冷酷だなんて」
「さっきの返事を聞いても?」

 そう訊ねられて、美咲は思わず口を噤んだ。

「冷酷……とまでは思いませんでしたけど」
「けど?」
「そこまで言わなくても、とは思いました。正直」

 素直にそう告げると、鷺沼は苦笑いを浮かべた。

「あ、すみません。でもおっしゃってることはもっともだと思ったんです。それは事実なんですけど……」

 慌てて続けると、鷺沼は「いや、いい」と笑った。

「自分でも時々、そこまで徹底しなくてもいいんじゃないかって思う。と同時に、変に希望を持たせるより良いとも思っているが」
「確かに、そういう考え方もありますね」

 つい先ほどの女性社員も、なかなか諦めが悪い様子だった。しょっちゅう告白されていたら、一風変わった――異様に粘り強いとか、愛情表現が強すぎるとか――そんな人に好かれる可能性もあるのかもしれない。

 美咲がそう、好意的に捉えようとした途端、鷺沼は自嘲的な笑みを浮かべてみせた。