「藤宮さん、もう少しやっていく?もしそうなら、飲み物選んで?」
「え?」
さりげなく名前を呼ばれたことに驚いていると、鷺沼は「いつもコーヒー飲んでるけど……缶コーヒーじゃ微妙だよな?」と続ける。
「あ、そんな」
「こんなことでお礼になるとは思ってないんだけど。でもお金入れちゃったから早く選んでほしい」
「あ、は、はい……」
急かされて慌てて自販機に向き直る。ホットのミルクティーのボタンを押した。
「コーヒー派ってわけでもないのか」
「あ、はい。糖分が欲しいなっていうときは、ミルクティにしていて。その、甘いので」
「はは。確かに甘そうだ」
「すみません、ありがとうございます。ごちそうしていただいて」
続けてホットコーヒーを買う鷺沼に、改めて頭をさげる。
「いやお礼を言うのはこっちだから、傘、ありがとう」
目の前に差し出された傘を受け取る。
「いえ、大したことじゃ……」
そう言って首を振る美咲に、鷺沼はふっと息を漏らした。
「冷酷な人間だと思われている俺に、傘を貸してくれるなんて、藤宮さんは優しい人だと思うよ」
「そんな……冷酷だなんて」
「さっきの返事を聞いても?」
そう訊ねられて、美咲は思わず口を噤んだ。
「冷酷……とまでは思いませんでしたけど」
「けど?」
「そこまで言わなくても、とは思いました。正直」
素直にそう告げると、鷺沼は苦笑いを浮かべた。
「あ、すみません。でもおっしゃってることはもっともだと思ったんです。それは事実なんですけど……」
慌てて続けると、鷺沼は「いや、いい」と笑った。
「自分でも時々、そこまで徹底しなくてもいいんじゃないかって思う。と同時に、変に希望を持たせるより良いとも思っているが」
「確かに、そういう考え方もありますね」
つい先ほどの女性社員も、なかなか諦めが悪い様子だった。しょっちゅう告白されていたら、一風変わった――異様に粘り強いとか、愛情表現が強すぎるとか――そんな人に好かれる可能性もあるのかもしれない。
美咲がそう、好意的に捉えようとした途端、鷺沼は自嘲的な笑みを浮かべてみせた。
「え?」
さりげなく名前を呼ばれたことに驚いていると、鷺沼は「いつもコーヒー飲んでるけど……缶コーヒーじゃ微妙だよな?」と続ける。
「あ、そんな」
「こんなことでお礼になるとは思ってないんだけど。でもお金入れちゃったから早く選んでほしい」
「あ、は、はい……」
急かされて慌てて自販機に向き直る。ホットのミルクティーのボタンを押した。
「コーヒー派ってわけでもないのか」
「あ、はい。糖分が欲しいなっていうときは、ミルクティにしていて。その、甘いので」
「はは。確かに甘そうだ」
「すみません、ありがとうございます。ごちそうしていただいて」
続けてホットコーヒーを買う鷺沼に、改めて頭をさげる。
「いやお礼を言うのはこっちだから、傘、ありがとう」
目の前に差し出された傘を受け取る。
「いえ、大したことじゃ……」
そう言って首を振る美咲に、鷺沼はふっと息を漏らした。
「冷酷な人間だと思われている俺に、傘を貸してくれるなんて、藤宮さんは優しい人だと思うよ」
「そんな……冷酷だなんて」
「さっきの返事を聞いても?」
そう訊ねられて、美咲は思わず口を噤んだ。
「冷酷……とまでは思いませんでしたけど」
「けど?」
「そこまで言わなくても、とは思いました。正直」
素直にそう告げると、鷺沼は苦笑いを浮かべた。
「あ、すみません。でもおっしゃってることはもっともだと思ったんです。それは事実なんですけど……」
慌てて続けると、鷺沼は「いや、いい」と笑った。
「自分でも時々、そこまで徹底しなくてもいいんじゃないかって思う。と同時に、変に希望を持たせるより良いとも思っているが」
「確かに、そういう考え方もありますね」
つい先ほどの女性社員も、なかなか諦めが悪い様子だった。しょっちゅう告白されていたら、一風変わった――異様に粘り強いとか、愛情表現が強すぎるとか――そんな人に好かれる可能性もあるのかもしれない。
美咲がそう、好意的に捉えようとした途端、鷺沼は自嘲的な笑みを浮かべてみせた。


