仮に鏡花が那桜のためにチョコを作ることになったら、確かにタバスコを仕込むくらいのことはしそうだと思い、想像したら笑ってしまった。
「若!」
急に扉が開いたかと思うと、切羽詰まった様子の組員がやって来た。
「おい、八重姫の前だぞ」
「はっ……! すみませんっ!」
「那桜さん、わたくしお暇いたしますわ」
八重はすっくと立ち上がる。
「お忙しい時にお邪魔してしまい、申し訳ありませんでした」
「いいんですか?」
「はい、クッキーも渡せましたし大丈夫ですわ」
那桜に横浜まで連れて行ってもらえるようにお願いするつもりでいたが、忙しいようだ。
仕方ない、上手く誤魔化してSPに連れて行ってもらうしかない。
何とかSPの目を盗んで明緋にこっそり会って、こっそりクッキーを渡そうと思った。
一番のベストはクッキーを郵送することだとわかってはいる。
でも、これはどうしても直接渡したかった。
明緋に会いたい、彼の喜ぶ顔が見たい。
ただそれだけだった。
*
その週末、八重は横浜の中華が食べたいと言ってSPを連れて横浜に訪れていた。
その後ブラブラと散策しながら、さりげなく明緋と合流する約束をしている。
前日から明緋と念入りなスケジュール確認をしていた。
恐らく会えるのはほんの数分になるだろうが、それでも良かった。



