那桜はジンジャークッキーを一つ取り出し、一口かじる。
「流石は八重姫、一流パティシエが作ったと言われても疑いようのない程の旨さですね」
「褒めすぎですわ」
「本心ですよ」
そのまま那桜はジンジャークッキーを一つ平らげてしまった。
「ありがとうございます。大事にいただきます」
「お口に合って何よりですわ。ところで今年はいくつもらいましたの?」
「段ボール三箱分ですかね。いや四箱?」
相変わらず那桜のモテっぷりは異常のようだ。
「すべて受け取りましたの?」
「まあ、一応ね。うちの組員は女っ気のない奴らばかりでしてね、毎年たかられるんです」
「え……すべて組の皆様に差し上げているのですか?」
「そうですよ」
悪びれた様子もなくケロッと答える。
「……那桜さんは召し上がらないのですか? 一つも?」
「他人の手作りなんて食べられたもんじゃないでしょう。何が入っているかわかりませんし」
流石にあれだけの量を全部食べているなんて思わなかったが、組員たちに残飯処理させているとは知らなかった。
いやでも、納得していた。
染井那桜とはそういう男なのだ。
いくら外面が良くても、腹の内は真っ黒い。
「そのクッキーも手作りですけれど」
「八重姫は別です」
「鏡花の手作りは?」
「いりませんね。それこそ何が入っているかわからない」



