鏡花は心底意味がわからない、という表情で聞き返す。


「那桜にチョコ? あげるわけないじゃん」
「……一応幼なじみですし、義理チョコくらいよろしいのではなくて?」
「那桜にあげる義理なんかないっつーの。大体あいつ、毎年山のようにチョコもらってるじゃん」


 確かに那桜は学年問わず多くの女子から山ほどチョコをもらっている。
 去年は車がパンパンになる程の量で、那桜の舎弟が困っていた。


「……鏡花からもらえたら、一番喜びますのに」
「なんか言った?」
「いいえ、なんでも」


 毎年さりげなく誘ってみてはいるものの、鏡花は一度も乗ってこない。
 今年もダメでした、と心の中で呟く。

 仕方なく今年も一人で作ろうと考える。
 今年は何にしよう?

 那桜はそこまで甘いものが得意ではないし、チョコレートは山ほどもらうから敢えて避けていた。
 バレンタインだけど、ジンジャークッキーなんてありかもしれない。


(……そうですわ、明緋さんにも差し上げるのはどうでしょう)


 唐突な思いつきに、急に体が熱くなる。
 自分で思いついたことなのに、心臓がドクンドクンとうるさく鼓動していた。


(明緋さん、甘いものお好きでしょうか……)