* * *
苦い季節が過ぎ去り、春になった。
桜の花がちょうど満開を迎え、今が一番見頃だ。
八重は今日から高校三年となる。
「八重お嬢様、行ってらっしゃいませ」
「行って参ります」
今日も車で送迎してもらい、登校する。
そんな八重の姿を遠い人を見つめるような視線で他の生徒たちは見守っている。
八重に気安く話しかける人は、同級生でも少ない。
「八重ーっ! おはよう!」
「おはようございます、鏡花」
「私たち、三年もまた同じクラスだよ!」
「知っていますわ」
「え、なんで?」
「それは――」
「三年は成績順だからですよ」
ふらり、と足音もなく那桜が現れる。
鏡花の表情がわかりやすく歪んだ。
「那桜……!」
「つまり俺も同じクラスです。学年一位ですから」
「むぅ! 次こそ私が勝つんだから!」
「へえ、楽しみですね」
那桜は楽しそうに笑っている。
鏡花をからかっている時、那桜が活き活きしていると気づいている人物は何人いるのだろう、と思った。
何はともあれ、今年も幼なじみたちと同じクラスになれて良かった。
那桜と鏡花の小競り合いを少し後ろで眺めながら、八重はふふっと笑う。
胸の痛みが癒えたわけではない。まだ心に傷を残している。
それでも親友たちと一緒ならば、いつかこの失恋が思い出に変わることだろう。
「八重ー、何してるの?」
「行きますよ、八重」
「はい」
籠の中の鳥は不自由なことばかり。その上守られてばかりのお姫様。
そんな自分に嫌気がさしてばかりいるけれど、これが自分だと受け入れて前に進むしかない。
こんな自分でも、もう一度恋をする日がくるのかはわからない。
今は自分のことよりも二人の行く末を見守っていきたいな、なんて思っていることは秘密だ。
fin.



