恋散るビタースウィート



 八重と那桜を乗せた車も発車する。
 後部座席に座った八重は、尚も涙が止まらずに啜り泣いていた。


「ごめんなさい、那桜さん……」


 那桜が来てくれなかったら、どうなっていたことか。
 想像するだけで恐ろしく、自分の犯したことへの罪悪感で押し潰されそうになる。


「……あいつらは、染井一家が追っていた(どくだみ)会の構成員です。ヤクの密売人として前から目をつけていました」


 那桜は静かな口調で語り出す。


「蕺会は一度解体していますが、残党共が集まってまた活動し始めるようになりました。組解体に大きく貢献したのが当時の捜査指揮官だった警視総監――あなたの父親です」
「……そうでしたか」


 だから満咲のことを酷く恨んでいたのだろう。
 父は前線で捜査に当たっていた頃から優秀な刑事だったらしい。
 それ故に恨みを買うことも多くある。

 父にとって娘である八重は大きな弱点だ。
 そのことをわかっていたつもりだったのに、軽率な行動から取り返しのつかないことになるかもしれなかった。


「本当に申し訳ございません。言い訳するつもりはありませんわ。お父様にもありのままをご報告ください」
「あの男のことは、どうするつもりですか?」
「もう、二度と会いません」


 八重は涙を拭い、はっきりと言い切る。