恋散るビタースウィート



 那桜に続き、染井一家の組員たちも拳銃を構えて取り囲む。


「八重お嬢様!!」


 SPたちも駆け寄ってきて八重を助けてくれた。
 絶体絶命に思われたが、那桜たちの介入によりあっという間に二人の男は捕らえられた。

 八重は泣きながら明緋に駆け寄る。


「明緋さん! 大丈夫ですか!?」
「う……っ」
「ごめんなさい、わたくしのせいで……っ」
「八重……」


 ボロボロと涙が溢れて止まらない八重に、明緋は震える指を伸ばそうとする。
 しかしその腕を那桜が掴んだ。


「……またお前か」


 那桜は低い声で明緋を睨みつける。


「お前、自分が何したかわかってるのか?」
「……っ!」
「違います!!」


 八重は那桜にしがみついて訴えかける。


「全部わたくしが悪いのです! 明緋さんは、悪くありません……っ」
「…………」


 八重は泣きながら何度も「ごめんなさい」と呟き続ける。
 那桜は明緋の腕を引っ張り上げて立たせると、側近の大山を呼んだ。


「大山、こいつを病院に連れて行ってやれ」
「はい」
「俺は八重を送り届ける。車回すように言っとけ」
「承知いたしました」


 大山は那桜に向かって恭しくお辞儀をすると、明緋を連れて車に乗り込む。


「八重……」


 明緋は車に乗り込む前に、振り返って八重を見つめる。
 その顔は赤く腫れており、口からは流血していた。
 腕も足も打撃痕が痛々しく残っている。


「明緋さん……っ」


 大山に急かされ、明緋は車に乗り込んだ。
 走り出す車が見えなくなるまで見送りながら、八重は涙が止まらなかった。