恋散るビタースウィート



 赤い鉄砲玉が飛んできたのかと思った。
 ものすごい剣幕で明緋が大男に飛びかかろうと突っ込んできた。


「(明緋さん……!!)」

「八重を離せーー!!」


 明緋は思い切り拳を振り上げたが、大男の太い腕一本で止められてしまった。
 そのまま赤子の手を捻るように、簡単にいなされてしまう。


「ぐぅ……っ」
「ん〜っ! んん〜〜っ!」
「なんだ、このガキ」


 中年のサングラスの男が忌々しそうに明緋を見下ろし、倒れる明緋を思い切り踏みつけた。


「ぐはっ」


 そのまま無抵抗の明緋を何度も蹴り続ける。
 八重は泣きながら明緋を呼ぼうとしたが、大男に捕まれて振り解くことができない。
 身を捩ってもビクともしない。

 ただ明緋が痛めつけられる姿を傍観していることしかできない。


「(明緋さんっ、わたくしのせいで……っ)」


 自分なんかと関わらなければ、こんなことにはならなかった。
 このままでは、明緋が死んでしまうかもしれない。

 泣き叫びたいのに声が出ない。
 この時程自分の無力さを呪ったことはなかった。


 ――パァン!

 突然銃声が轟いた。


「ぐはああっ」


 叫び声を上げたのは、サングラスの男だった。
 その右腕からは真っ赤な鮮血が滴っている。

 その直後、再び銃声が轟いたかと思うと、熊のような男がそのまま倒れ込んだ。


「――動くな」


 拳銃を構え、獲物を捕らえようとする狼のような目で睨みつけていたのは――那桜だった。