恋散るビタースウィート



 明緋のために頑張って作って良かった。
 この笑顔が見たくて、どうしても直接渡したかった。

 八重の心は多幸感に満ち溢れている。


「本当にありがとう。今更だけど、バレンタインのチョコ代わりだと思っていいんだよな?」
「そう、ですわね」


 改めてそう言われると恥ずかしくてムズムズしてしまう。


「すげー嬉しい……」


 喜びを噛み締める明緋の横顔を見ていると、心臓の音がうるさい。

 自分からのバレンタインのプレゼントを喜んでくれている。
 嬉しいと思ってもらえることが、八重自身も嬉しかった。


「八重、あのさ」


 急に明緋が真顔になってじっ、と八重の瞳を見つめる。


「今日は八重に話したいことがあるんだ」
「え……」
「俺、八重のことが――」


 その時だ。


「八重お嬢様! 何をしてらっしゃるのですか!」


 八重を追いかけてきたSPたちに見つかってしまった。
 束の間の密会があっという間に終わってしまう――そう思った時、八重の腕が強く引っ張られる。


「こっちだ八重!」
「明緋さん!?」


 明緋は八重の腕を掴んだまま走り出す。
 人の間を縫うように進み、どんどんSPたちから離れたいく。


「お待ちください、お嬢様!」


 背後から叫び声が聞こえるが、八重は振り返らずに走り続けた。