たった数分でも明緋に会える。
 そう思うと胸の高鳴りが抑えられない。

 横浜は父と母が初めてデートした場所でもあるらしい。
 行きつけの中華料理屋に行くと、よくシェフが若い頃の両親の話を聞かせてくれる。

 親のそういう話は少し気恥ずかしいと思いつつ、憧れる気持ちがあったのも確かだった。

 いつか自分も明緋と……なんて夢を膨らませてしまう。


「赤レンガに行きたいです」
「かしこまりました」


 中華ランチを終え、予定通り赤レンガ倉庫に行きたい旨を伝える。
 買い物をするフリをしながら、さりげなく明緋と会うことになっている。

 八重は店を出る前に明緋にメッセージを送った。


《これから向かいます》
《了解》


 その二文字だけでときめきが隠せない。
 早く会いたい、胸を高鳴らせながら赤レンガ倉庫へと向かう。

 やはりこの気持ちは、恋なのだろうか――。


 *


「すみません、お手洗いに行って参ります」


 そう言って八重はしばしSPから離れる。
 トイレの個室で急いで着ていた服を裏返して着直した。リバーシブルになっているのだ。

 頭にスカーフを巻き、サングラスをかけてそっとトイレから出て行く。
 SPたちの目をすり抜け、足速に明緋の元へと向かった。