満咲(みつさき)八重(やえ)には、密かな楽しみがある。

 それは、修学旅行で偶然出会った、いや再会した寒田(かんだ)明緋(あけひ)との毎日のメッセージのやり取りだ。


《今日マラソン大会。キツすぎ!》
《頑張ってくださいね》


 他愛のないやり取りが多いが、それが楽しい。
 初詣で二度目の偶然の再会を果たし、そこから何となく毎日メッセージのやり取りが続いている。

 横浜の男子校に通う明緋は気軽に会いに行ける距離ではないからこそ、何気ないメッセージだけでも楽しいのだ。


「なんか八重、最近楽しそうだね」


 車での下校中、幼なじみで親友の鏡花(きょうか)が言った。
 今日は鏡花も一緒に車で帰っていた。


「いいことでもあったの?」


 鈍感な鏡花ですら気づく程わかりやすかったのかと思うと、少し恥ずかしい気持ちになる。


「何でもありませんわ」
「そう?」


 鏡花には明緋のことを話していない。
 別に隠しているつもりはないが、わざわざ話すようなことではないと思っているからだ。