目が覚めたら、ロンドンでした。





「……お願い、助けて。」






 小さな声だった。


 でも、確かに届いたのだと思う。


 ホームズの足が、止まった。




「……やれやれ。」




 ため息のような声。
 それから、帽子のつばを少し上げた。





「女性に泣かれるのは、苦手なんだ。」



「……え?」




「仕方がない。ワトソンがいる俺の下宿先へ行く。君をそこへ連れていこう。」




「ワ、ワトソンって……まさか、ジョン・H・ワトソンですか!?」





「ほかに誰がいる。」







嘘でしょ?!

 心の中で何度も読んだ名前が、現実の音になって響く。





 霧の街。

 ガス灯の光が、二人の影を長く伸ばしていた。





 私はその背中を追いかけた。

 冷たい風が頬を撫で、どこか懐かしい匂いがした。